2020年07月12日(日) 20:12
置くにもちょいと短めだったのでここに置いときますね……。
ニオ未最終の人は早く最終しよう。LV100フェイト最終戦の演出とか文章とかどちゃくそによいので早く見よう。
○
──から、ころ。
からん、ころん──。
今日は、祭りの日。
道行く人々の喧騒はいつにも増して穏やかな雰囲気に包まれていた。あちこちから童の笑い声が響き、通りには立ち並ぶ屋台からは、様々な料理の香りが入り混じって鼻をくすぐる。
その中を、ゆるりと歩む男女があった。
男はまだ年若い、茶の髪を持つ少年と青年の狭間にある風貌。連れの女性と手を繋ぎ、のんびりと歩んでいる。どうにも人の良さそうな青年である。
手を繋がれた紫髪の女は童と見紛うほどに小さな背丈。しかし頬を少し朱に染める顔は、童と言うには妖しい艶がある──矮躯の種族、ハーヴィンであるようだ。小気味よく下駄を鳴らして青年の指をぎゅっと握る様が可愛らしい。
仲睦まじくユカタヴィラを着込んだ二人は、この先にある社へと向かって歩んでいた。
青年──さる騎空団の団長が知人に訊くところ、その社からは今日の催しの最高潮となる火薬芸──光華が一層よく見えるというので、最近少し塞ぎがちな女性──ニオを誘って観に行く事となったのである。
屋台の品を見ながら、グランは傍の女へ訊ねた。
「何か、買っていく?」
「ん……お団子なら少し……」
わかった、と青年は少し通りを逸れて、屋台ではなく通りに並ぶ店へ向かう。そこは彼が以前立ち寄った経験のある店だった。
「いらっしゃい!何が食べたいんだい?」
ドラフの店主に威勢よく訊ねられ、青年は一拍おいて答える。
「甘タレ団子を二つ……ニオは何が良い?」
「ん……お塩?」
「塩団子も一つください」
「はいよ!少し待ってくれな!お客さんも今日は祭りだから疲れたろう、出来るまで恋人さんとそこの長椅子に座って休んでると良い。どの道今日は客も少ないだろうからな!」
「はい、ありがとうございます」
豪放に笑う店主の勧めに礼を言い、二人は長椅子に腰掛けて注文が出来上がるまでをゆっくりと待つ。
背後から香る団子の焼ける匂いは不思議なほどに食欲を湧かせた。
少し離れた距離から祭りを楽しむ人々を俯瞰するうちに、ニオはなんとなく手持ち無沙汰な気持ちになって、青年の掌を使って拍子を刻み始めた。
「この拍子は?」
「私なら多分こう打つかな、って思ったの……今年はお休みさせてもらったけれど」
「うん」
「不思議なものね、今でも私は人が多いところが嫌い。なのに……気付かないうちにこのお祭りには慣れ親しんでるの」
自分がそうなるなんて、思ってもなかった。とニオは続け、青年の返答は聞かずに身を寄り添わせた。彼の鼓動が静かに宥めてくれていた。
「お客さん、出来上がったよ!まだ色々買いたい物も出てくるだろう、此処で食べていってくれて構わないよ」
「はい、重ねてありがとうございます」
「いいって事よ!」
再び長椅子に座りながら、二人はゆったりと団子を食んでいく。そのうち、青年はニオの視線が自分の持つ串に注がれている事に気がついた。
「……こっちも、食べてみる?」
「うん。あなたにも」
言葉少なに互いに頼んだ物を交換して、再び口に運ぶ。
お互いが知っている。言葉が少なくとも意は充分に通じる事を。
団子を食べ終える頃、仄かに甘い匂いが大気に入り交じり始めた。
天地が水気を含み始めたにおい。
露を湛えた花の香りにも似たにおい。
喧騒が少し激しくなり、人々が各々屋台の影に隠れるように動き始める。
その様子を見ながら、青年は隣へ訊ねた。
「夕立かな?」
「だと思う、あちこちからそんな旋律がする。あなたは雨が好き?」
青年が肯くのを目に、ニオは私も、と応えて口ずさみ始めた。
それは雨足が近づくにつれて激しく奏でられ、やがて雨垂れの音に沿うようにゆっくりと速さを落としていく。やがてそれが止まり、彼女はゆったりと青年の方を向いて囁いた。
「まだ雨が止むまで少しかかると思う……だから、今度は一緒に」
青年はその言葉に微笑んで、ニオの後を追うように口ずさみ始める。
雨垂れに合わせて緩やかに。
温い風に沿って穏やかに。
雨足に追われて急ぎ足……。
雨が止むまでの僅かな時間は、二人にはずっと長くに引き延ばされていた。
逢瀬の幸福は、密やかに刻まれていた。
○
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