2021年12月20日(月) 23:30
あの後は理事長の詰問を適当に受け流し諸々の処理を済ませ、トゥインクルシリーズが終わった後に俺たちは海外へ飛んだ。
それも全てカレンの為だ。俺はそれに付き従う形で生きているだけに過ぎない。もう何も失いたくなかった。最初から何も掴める身じゃなかったんだ。
だからせめて、アイツには夢を叶えてほしい。俺はそれだけを望んだ。アイツもそれを望んでいた。
「────」
遠征先のホテル。その一室に到着すると同時に崩れ落ち────かけた俺をカレンが受け止めた。本来なら部屋は別々にする手筈だったがもう一歩も動く気になれなかった。
ガス抜きとして適度に走ればいいのだろうが、止まれる自信が無かった。また延々と駆け続けてしまう気がして。大切な記憶を失うことを恐れて。
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掲げた夢か、お兄ちゃんか。どちらかを捨てる気なんて無い。目指したのなら諦めなんてしない。それにお兄ちゃんは私の夢を今も変わらずに応援してくれていた。
この人は”役目”に縋りついていないと生きていけない。放ってしまえばまたどこかに走り出していなくなってしまう。
だから「カレンのお兄ちゃん」という役割で縛り付けた。たとえ私をカワイイと思えなくても、それでこの人が生きてくれるのなら。
回した腕に少しだけ力を込める。
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「……お兄ちゃん。私ね、お兄ちゃんのこと────」
『走れ走れ走れ走れ────』
何を言っているのか分からない。
コイツの引退後はどうすればいいのか、この声は死ぬまで消えないのか、コイツが俺から離れていったら俺は自由になれるのか、何もかも見当がつかないがどうだっていい。
俺はカレンの”お兄ちゃん”で、カレンのトレーナーは俺だけだ。それ以上でもそれ以下でもない。俺がいなければコイツは”カレンチャン”たり得ず、カレンがいなければ俺は自分を保てない。
それだけ分かっていれば後は何もいらない。
しなだれかかったまま、瞳を閉じた。
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