作者:結露
メメントス。
その日、そこに一体の何かが流れ着いた。それは、全身に光るタトゥーを帯びた、上裸の男……少年と言っていい程若く見える。
彼は広いレールの中央で、身体を丸め眠り込んでいる。項から尖る微かに艶やく角と、全身に走る淡青色の発光線だけが、彼がそこにいることを現していた。
周囲は突然現れた異物に対し、仄かに剣呑な空気を漂わせ始めた。通常、この地に人間が存在する事はない。ここに蔓延るのはシャドウという精神生命体のみ。彼等は息を潜め、未だ目覚める気配のない彼を眺め思案する。
あれは何だ。余り美味くは無さそうだが、腹の足しにはなるだろうか?
暗がりから一体のシャドウが抜け出、攻撃体勢に入った。巨躯に似合わぬ身のこなしで足音を殺し、慎重に背後を取る。あと一歩……獲物を目の前にして、蛇の尾を持つ巨犬はその毛を無意識に逆立てた。
しかし、哀れなシャドウは気が付かなかった。同胞たちが自分を残し、いつの間にか姿を消していることに。少年の双眸に、静かに、金色が灯された事に。
微睡みに取り憑かれたまま、蕩けた頭でゆっくりと辺りを見渡す。握り締めた拳の甲には、白い毛がこびりついていた。反射的に奮った拳の的は、この僅かな片を残して消し飛んだらしい。
……直前の記憶が無い。ここはどこだ?
暗い、洞窟か?地面にはレールが走っている。見覚えがないが……何処かの坑道へ迷い込んだのか。
確か…………そうだ、最後の記憶はルシファーに挑んだ所だった筈だ。
俺は勝ったのか、負けたのか……。
「…………思い出せない」
少年の呟きに応える者は誰も居なかった。
彼がこの世界に辿り着いたのは、大いなる意志か、魔王の謀略か?この世界で彼を待ち受けるのは、更なる苦難か、試練か?
……その日、そこで一体の悪魔が目を覚ました。彼が何を掴むか。何を成すか。それはまだ誰も知らない。
~目次~
[1]次 最初 最後
◇1.歯車は狂い始めた
◇2.現実世界
◇3.カウンセリング
◇4.奥村 春
◇5.新島 真
◇6.契約
◇7.清掃活動
◇8.暗影
◇9.金髪の老紳士
◇10.黒猫と少年
◇11.平行世界
◇12.二人の目的
◇13.カネシロパレス攻略
◇14.居候
◇15.葛葉ライドウ 現世ニテ就職ス。
◇16.明智 吾郎
◇17.VSカネシロ・バエル・ジュンヤ
◇18.釣り
◇19.勉強会
◇20.花火大会
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