作者:木下望太郎
心の内をのぞいてみせる、奇妙な男に私は出会った。
かつて別れた恋人が亡くなった、その知らせを受けて訪れた、恋人の故郷の島で。
シルクハットをかぶった、奇妙な男は言い当てた、私が島を訪れた理由を。
「見つかるとよろしいですな。『空白を埋める言葉』」
私は空白を抱えていた、かつての恋人が死んだと聞いても、何の感情も湧かなかった。空白だけが居座る胸の内を埋める何か、『空白を埋める言葉』を探して、恋人の故郷へと来たのだった。
そして奇妙な男は、その旅に同行を申し出る。ハザマダ ブンガクと名乗るその男は。
「お探しのもの見つかるように、このブンガクがお供します。お嫌なら、ま、結構ですが。ただしゆめゆめ忘れぬように、人は誰しも一人とて、文学からは逃れ得ぬこと。それはまるで自身の影から、いやいやまさに自身から、決して逃れ得ぬように。えぇ、決して」
ブンガクはひざまずくように、うやうやしく礼をしながらそう言った。シルクハットを取りもせずに。
喪失と空白と、小さな島と。心と言葉をめぐる、小さな旅が始まる。
~目次~
◇1話 奇妙な男と、
◇2話 彼の想い出と、
◇3話 胸の空白と、
◇4話 彼のいた島と、
◇5話 奇妙な男との再会と、
◇6話 私の愛車と、
◇7話 空白の島と、
◇8話 言伝と、想い出と、
◇9話 文学と、
◇10話 彼の小説と、
◇11話 空白ではなかったそれと、
◇最終話 空白の島と、ハザマダ ブンガクと、彼と私と。
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