ハーメルン
生物兵器の夢
12. 殲滅ミッション 0

 敵の幹部の全滅、及びに麻薬や武器、情報の奪取、破壊の大半が完了した。
 身体には、銃弾は一発も入っていない。けれど、爆弾の衝撃で体を打ち付けたり、苦し紛れの抵抗で切られたり、殴られたりという傷の方が多かった。
 自分達の撤退命令が出て、終わった、と思った。
 仲間が沢山死んだ。自分が仕留めた最後の人間の背中から、ゆっくりと爪を抜く。
 肋骨の間を縫って心臓に突き刺したその爪は、血だけではなく、煤にも塗れていた。

 仲間の死体を傍目に見ながら、生き残った仲間達と徐々に合流していく。
 致命傷を負って動けなくなっていた仲間に、時に止めを刺しながら。
 爆発や銃弾でぼろぼろになった通路。
 上半身が吹き飛んだ人間、仲間達。機関銃に木っ端微塵にされた仲間。爆弾で破壊したその機関銃の破片。
 弾け飛んだ沢山の銃弾の痕跡。
 ゆっくりと歩いた。
 人間と合流した。疲労の色は、自分達と同じく隠しきれていなかった。

 分かれ道を来た順番に戻って行く。
 仲間と合流していく。
 腕から血を流している仲間も居れば、足を引き摺っている仲間も居る。背中に大きく火傷を負っている。口から血を吐いた痕があり、ふらついている。
 自分は軽傷な方だった。
 ……見た目では、半分は死んでいるだろうか。
 ふらついていた仲間が倒れた。
 口からまた、血を吐いていた。
 それを見た人間が、言った。
「……駄目だな。置いて行け」
 ……くそ。
 ひゅー、ひゅー、と苦しそうな呼吸をしながら、自分の足を掴んで来た。
 嫌だ。死にたくない。置いて行かないで。
 そのとても強い願いに自分は、応えられない。
 仕方なく止めを刺そうと思った時、強い衝撃の音が聞こえた。
 ドン、ドン。
 足が止まった。爆発の音じゃない。誰かが扉か何かを叩いている音だ。しかも、結構近い。
「何だ?」
 音の方に顔を向ける。開いた扉と、その先の薄暗い空間がある。
 そこも人間達と仲間が入って、出て来た場所だった。殲滅は完了している筈だった。
「――! ――――!」
 人の声だ。人間が銃を構え、仲間達は射線から外れながら後退した。明らかに、おかしい。
 どん、どん。
「――――ぁぁぁぁあああああああああああああああっ」
 その断末魔と共に、足音が聞こえて来た。
 扉の先から、扉の高さよりも高い、何かが見えた。
 ……人間?
 裸で直立している。自分達のように鱗とかも生えておらず、見た目はでかい人間のようだった。
 剥き出しの心臓や異様に伸びた右手の爪に、ただの人間が突き刺さっている事を除けば。
「……タイラント?」
 銃を構えていた人間が、そう呟いた。
 B.O.Wなのは間違い無かった。でも、どう見ても、ヤバい。
 存在感だけで、見た目だけで危険過ぎると分かる。
タイラントが正面を向いて、扉の上から顔を降ろして自分達を見た。
「広い所まで逃げろ!」
 そう人間が言うのと、タイラントが爪を払って人間を投げ捨てたのは同時だった。
 そして、掴まれていた足を振り払い、自分も全速力で逃げる。その死にかけが後続の仲間達に踏まれて悲鳴を上げた。そして何も聞こえなくなった。
 扉の向こう、それからもう少しした所にその広い場所があった筈だ。

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