第9話 紅茶
秘密の部屋に入ったショーン達を迎えたのは、ドラコ・マルフォイだった。
――いや、ドラコ・マルフォイではない。
ドラコ・マルフォイの皮を被った、別のナニカだ。
それが簡単に分かるほど、マルフォイの中の“彼”は存在感を放っていた。一年生のショーンは勿論、歴戦の先生方でさえ、彼の一挙手一投足から目が離せないでいたほどである。
「お久しぶりです、マグゴナガル教師、フリットウィック教師も」
男は優雅なお辞儀をした。
その動きはとても美しく、一瞬ここが薄暗い地下室である事を忘れさせるほどだった。
それが、とても恐ろしい。
こちらは最大限警戒してるはずなのに、まるで音も無く近づいてくる蛇の様に、いつの間にかスルリとこちらの心の中に入ってくる。
「ふざけるのはやめなさい、ミスター・マルフォイ!」
「心外だな……ふざけてなんていませんよ。それより、お疲れでしょう。紅茶でもどうです?」
男が杖を振ると、豪華な机と椅子、綺麗なティーセットが現れた。
彼は慣れた手つきで紅茶を四人分並べていく。お茶請けには、ドライフルーツが練り込まれたクッキーが用意されていた。
良い匂いがする。そう言えば、朝から何も食べてないな……。ふと、そんな事を考えている自分に気がついた。敵地で「紅茶とクッキーが美味しそうだ……」などと考えるなんて、正気ではない。
「紅茶が淹れ終わりましたよ。さあ、席について」
「我々をからかっているのですか? 貴方が出したものなど、口に入れるわけがないでしょう!」
「やれやれ、何をそんなに警戒してるんです? そんな事、まったくの無意味なのに。いくら警戒しようが、しまいが――」
男は呆れた様に言った。
「――僕がその気になれば、直ぐに決着はつく」
男はパチン! と、指を鳴らした。
すると何処からともなく、ハリー・ポッターが現れた。顔に生気はなく、また手にはナイフが握られている。ハリーはそのナイフを、自分の首に向けていた。
「ポッター!」
「自分に向けて失神呪文を撃って下さい。でなければ、ハリーには死んでいただくことになる。僕の紅茶を断ったんだ、時間はもうありませんよ。3……2……1……」
赤い閃光が二つ輝いた。
直後に、人が倒れる音が二つ。
頼りにしていた先生方は、あっけなくやられてしまった。
しかし、意外にもショーンは冷静だった。
ショーンが真に頼りにしているのは、先生方ではなく四人の幽霊達、その一人が遺した物を見つけた者なら、先生方くらい簡単に倒すかもしれないと覚悟していたからだ。
どうするべきか……ショーンは考える。
この男を自分一人で倒す、というのは無理だろう。ならば、時間を稼ぐというのはどうだろうか。あの抜け目ないスネイプなら、何かしらの異変を感じとり、ダンブルドア校長に連絡してくれるかもしれない。
確認の意味を込めて、四人の幽霊達を見る。
……彼らが頷いてくれたということは、問題ないということだろう。
「おや、君は自分に魔法を撃たないのかい、ショーン君」
「……失神呪文はまだ使えないんでな」
「なるほど。それなら仕方がないな。それじゃあどうだい、一緒にティータイムを楽しまないか?」
「悪くない。実は朝から何も食べてないんだ」
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