第1話 絶対絶命
脱獄を決めてから約三ヶ月。未だショーンとシリウス、ベラトリックスの三人はアズカバンに居た。ホグワーツ開校に間に合うどころか、ハロウィンも過ぎてしまったのである。まったくお笑いだ。
その主な原因は、ベラトリックスにある。
シリウスの計画は動物もどきになる事で吸魂鬼の影響を受けにくくするというものなのだが、ベラトリックスが動物もどきの習得に手こずっているのだ。
純血主義の中でも殊更プライドの高い彼女は、自分が人間以外の姿になることが我慢ならないらしい。理屈では分かっているのだが……というやつだ。
ちなみにショーンも動物もどきを習得していないが、何故だか吸魂鬼の影響を一切受けないので問題ない。
「早くしろよ、ベラトリックス。俺の刑期が終わっちゃうぜ」
「うるさい! ちょっと待ちな」
「そのセリフ何回目だよ……」
「ショーン。覚えておくといい、女の「ちょっと待って」ほど長いものはない」
「シリウス、あんたはここを出た瞬間殺す」
「なら殺されないよう二人で出るか、ショーン」
「ちょ、待ちな!」
「おはよう!」
ショーンは一つため息をついてから、クロスワードを再開する事にした。
次の問題は、なになに……動物もどきを作り出した人物か。随分とタイムリーな話題だ。時事問題というやつだな。
「はいはいはーい! それ私、私です!」
ロウェナがニッコニコしながら手を挙げた。ロウェナ・レイブンクロー、文字数も合っている。これで正解らしい。
「馬鹿、と」
「なんで馬鹿って書くんですか!? 文字数とか合ってないじゃないですか!」
「すまん、癖で」
「癖!? まさかショーン、今まで私のことを頭の中で「馬鹿」と呼んでいたのですか?」
「ははははは」
「笑って誤魔化された!?」
なんだか、いつもよりロウェナのテンションが高い。室内犬は小まめに散歩に連れて行かないとストレスが溜まって煩くなると聞いたことがあるが、その類だろうか。
早くここを出なければならない。ショーンは改めてそう思った。
「……ん、待てよ。ロウェナがこの魔法を作ったのなら、なんかこう、良い感じに出来るんじゃないのか?」
「なんです、そのあやふやな言葉は。でも、そうですね。出来ないことはないと思いますよ。ただ……」
「ただ?」
「杖がありません」
「確かに」
しかし逆に言えば、杖さえあれば出来るということだ。
当然のことだが、ショーンの杖は取り上げられている。二年経てば出れるので、折られては無いと思うが、何処にあるのか分からない。
相変わらずシリウスと口喧嘩しているベラトリックスに話しかける。
「ベラトリックス!」
「おはよう!」
「お前じゃない。ちょっと静かにしてろ。ベラトリックス!」
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