第2話 プリズンブレイク
ジニーは眠い目をこすりながら、大広間に向かっていた。
狙いはもちろん、朝食である。
ダイエットとは無縁な彼女は、大広間ではいつだって獰猛な獅子だった。
大広間に着くと、見慣れた金髪が見えた。
一年のうち半分以上もここにいるのだ。指定席の一つや二つも出来てくる。ジニーは自分のために空いているその先に、迷いなく腰を下ろした。
「はあい、コリン」
「おはよう、ジニー」
「あのバカは?」
「まだ帰って来てないよ」
「そう……」
ホグワーツにバカは多いが、二人の間でバカと言ったら魔法史と魔法薬学が壊滅的なあのバカしかいない。
ここ最近のショーンはおかしかった。いや元々頭はおかしいのだが、それとはまたちょっと違ったおかしさだ。
夜になるとベッドを抜けて何処かへ出掛け、朝になっても帰ってこない。日課の釣りも最近は滅多にやっていないみたいだ。それだけならまたいつもの下らない企みか、とも思うかもしれないが……。あの様子を見ると、そうは思えない。
「おはよう、二人とも」
噂をすれば、というやつだろうか。
いつの間にかショーンが立っていた。
髪はボサボサ、目の下には分厚いクマが出来ており、肌は青白い。一目で不健康とわかる。
帰ってくるたびにやつれていくのだ、どう考えても普通じゃない。
「何してたの?」
「色々」
いつもなら「君へのプレゼントを買いに」の様なジョークの一つでも返ってきそうだが、それだけ短く言ってショーンは席に着いた。そして野菜と肉をバランス良く急いで食べてから、また何処かへ行ってしまう。お別れの言葉もなしだ。
別に女らしく扱えとは言わないが、この扱いは流石にちょっとあんまりだ。
ジニーはふんと鼻を鳴らし、コリンは心配そうにカメラのシャッターを押した。珍しいものがあったら写真を撮る、コリンの使命である。
「最近、誰かに会ってるみたいなんだ」
「えっ?」
「前にこっそり後をつけていったんだけど――」
「あんた、意外と度胸あるわね……」
「誰かと熱心に話してた。それで言い争いになって、ショーンが大きい声出しちゃったから、慌てて逃げたよ」
「口論、ねえ……」
ショーンの交友関係は狭くない。むしろ、ホグワーツの生徒の中では相当広い部類に入る。ジニーやコリンが知らない友人の一人や二人、当然いるだろう。しかし、である……。
「尾行する?」
「えっ?」
「だから、あのバカを尾行するのよ。私達に隠れて何をしてるのか、突き止めてやろうじゃないの」
「……分かった。僕も気になってたし」
「それじゃあこれからは……そうねえ、私達は『ジニー・探偵団』よ」
「了解ホームズ」
「貴方、自分がワトソンになれると思ってるの?」
こうして、二人きりの探偵団が結成されたのである。
◇◇◇◇◇
かの偉大なる大英雄ギルデロイ・ロックハートは、記念すべき――あるいは懸念すべき――第一回目の授業でこう問うた。
ギルデロイ・ロックハートの好きな食べ物は何か?
その頃にはもうすっかり答える気をなくしていたショーンは、ミミズのはった様な文字で『アンモナイトのつぼ焼き』と答えた。
その後答え合わせの様な事をしていた気がするが、残念ながらその時はヒジをどうやったらアゴにつけられるか、という人類史に残る難題に挑戦していたため、結局答えは闇の中である。
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