ハーメルン
ショーン・ハーツと偉大なる創設者達
第2話 奇妙な少女

 杖を買った後、魔法界に慣れる意味で、ショーンはホグワーツが始まるまでの二週間ばかりの時間を、ダイアゴン横丁で過ごすことになった。
 住んでいる場所は『漏れ鍋』である。
 ここはダイアゴン横丁の入り口であると同時に、ホグワーツと提携している店でもあり、夏の短い間だけ生徒を無料で泊めているのだ。その代わり、泊まっている間その生徒は、店の手伝いをしなくてはならない。
 それはショーンも例外ではなく、今日も朝は早くから仕込みの手伝いをしていた。

 ショーンは最初、楽勝だと息巻いていた。
 孤児院は自給自足の場所。当番制とはいえ、食材を仕入れる所から盛り付けまで、当たり前にやっていた事だったからだ。
 しかし、蓋を開けてみるとトンデモナイ。ここは魔法界、食材もまた魔法の食材だったのだ。
 走り回るカブをどうにか鍋の中に放り込み、空中を泳ぎ回る魚を三枚におろし、ギャーギャーと喚く林檎と口論しながら剥き終える頃には、すっかりショーンは疲れ果てていた。
 それでもなんとか作業を終える事が出来たのは、ヘルガの助言によるところが大きいだろう。

 ヘルガは魔法料理が得意だったらしく――ホグワーツのメニューを考案したのも彼女という話だ――ショーンに的確な助言をしてみせた。
 また料理は出来ないが、舌が肥えているサラザールは一流の味見をしてくれたし、美的センスに優れるゴドリックは盛り付けの神様だった。
 一方で、ロウェナといったら酷い有様だった。

 彼女どうも完璧にレシピ通りでないと気が済まない性格らしく、500グラムと書いてあったら少しの誤差もなく500グラム、弱火で3分と書いてあったら1秒の誤差もなく3分焼かないと我慢ならない様だった。
 お菓子作りをするならともかく、パブの仕込みでそんなことをしていたら、明日になったって今日の仕込みが終わらない。
 しかも店主であるトムの手書きレシピに「塩をひとつまみ」だの「焦げ目がつくまで」だのと書かれていた日には「もっと正確に表記しなさい!」と顔を真っ赤にさせた。

 どうにかこうにか朝の仕込みを終えたショーンは、遅めの朝食、あるいは早めのお昼ご飯を食べた。
 メニューは、何だか良く分からない魚と得体の知れない野菜のスープ、見たことも聞いたこともない肉を焼いたもの。
 食べてみると、意外と美味しかった。やはり、疲労と空腹は最高のスパイスだ。

「さて、何処に行こうかな」

 あてがわれた部屋で、魔法使いのお金――ガリオン金貨――をコロコロ転がしながら、ぽつりと呟いた。
 働きぶりが良かったから、ということで、トムから少しの給金と暇を貰えたのだ。
 しかし、ショーンは魔法界どころか、マグル界でだってあまり遊んだ事がない。さあ、自由にしていいですよ、と言われると逆に困ってしまう。

「本屋に行きましょうよ、本屋! 自分の見聞を広める――ああ、何とも素敵ではありませんか」
「却下」
「ええ!?」

 ロウェナは直前までしていた「どうです、私の完璧なプランは!」というドヤ顔を引っ込め、一転して涙を目に浮かべながらその場にうずくまった。

「なら、クィディッチ専門店に行こうよ」
「クィディッチ? そういえば、マクゴナガル教授も言ってたな、それ」
「魔法界のとてもメジャーなスポーツだよ。と言うより、魔法界にはクィディッチしかないけど。簡単に言うと、箒に乗って飛びながらやる変則的バスケットボールってところかな」

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