第15章 出撃
「時空管理局機動勇者隊の総力を以って、ソール11遊星主に対する攻勢をここに、決定します」
八神はやての宣言する声が会議室に響き渡った。
少し時間を遡る。
ミッドチルダを見舞ったゾンダーによる破壊活動は終息した。
「……コクトゥーラ!」
緑の髪の少年──天海護の唱える浄解の呪文が、ジェイル・スカリエッティと呼ばれる人間をZの力から救い出す。
凶悪な広域次元犯罪者として名を馳せた男は、全くの善人として生まれ変わったようだった。
泣いて罪を悔い、罰を請う姿は、一種の異様さを見ている者に覚えさせた。
「ぐぎゃぁっ!?」
その、スカリエッティの口から奇妙な悲鳴が上がった。
同時に、ミッドチルダの平和を震撼させた男の胸から、鮮血が噴き出す。
「なっ……!」
護の眼に、信じられない光景が映った。
スカリエッティの胸から、細い繊手が突き出ていた。手は血で濡れている。
「な、なぜ……」
スカリエッティの掠れた声が問う。
腕が引き抜かれ、致命傷を負った体が光に染まった。
それがレプリジン消滅の運命だと、護は知っている。だが、複製とはいえ、せっかく浄解できた人物が消えていくのは、彼には堪えられなかった。
「どうして!?」
悲しみを含んだ護の叫び。スカリエッティの体は光の粒子と化して、崩壊していった。
「仲間なのに……!」
レプリスカリエッティを殺害した女は、悪びれることもなく言い放った。
「あんなの、私が知っていたドクターじゃないわ」
そう。彼女──クアットロが愛し忠誠を尽くしたドクター・ジェイル・スカリエッティはあのような、柔弱な男ではなかった。ゾンダー化と浄解について充分な知識が無かったクアットロは、スカリエッティが急に変節したように見えたのだ。それゆえ、余計なことを話される前に始末した。
最後までスカリエッティを慕い、ゆりかご戦でも執念深くドクターの夢を叶えようとした彼女だからこそか。泣いて許しを請うスカリエッティは、失望以外の感情をもたらさなかった。
だから殺した。
クアットロは戦闘機人の中では非力な方だが、それでも、その抜き手は人間一人を即死させるほどのパワーはある。そんな彼女の後ろでは、遊星主ピルナスが、嘲笑ともとれる微笑を浮かべて佇んでいた。
「どうせ、ドクターの変わりならいくらでもあるんだから……」
スカリエッティがナンバーズの体内に残した、彼自身の因子だけではない。クアットロはピサ・ソールの能力を知っている。物質復元装置があれば、何度でもドクターは蘇るのだ。
クアットロの余裕はそこに起因する。スカリエッティのレプリジンは彼女の中に在った因子を基に、ピサ・ソールで複製したものであった。
だが、それでも。
あっさりと、自分の創造主を手に掛ける非情さに、はやて達は眉をひそめずにはいられなかった。シグナム等は露骨に嫌悪を表わにしている。
護も、仲間を裏切る行為は、許せなかった。
「ふん、まだ一戦交えたそうな顔をしてるわね」
クアットロは、自分を包囲する面々を冷たく見下しながら言った。
「残念だけど。私達の目的は大方達成されたし。今日は引き揚げさせてもらうわね」
「この状況下で逃げられると思っているのか?」
夜天の主はやて、守護騎士達、若きストライカー達。
精鋭が揃う陣容である。クアットロやピルナスといえど、無傷で逃走ができるわけがないと、誰もが思うだろう状態だ。
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/13
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク