ハーメルン
ナノガイガー戦記~勇者とエース~ 
第7章 誓いとともに

時空管理局フェイト・T・ハラオウン執務官は、ジェイアーク艦内で獅子王 凱の作業を見守っていたが、どうやら自分では力にはなれないと思い、外へ出た。卯都木 命(うつぎ みこと)とソルダートJはジェイアーク内に残った。
一息入れようと、フェイトは休憩室へ向かう。
休憩室に入ると、テーブルになのはが一人、放心気味に座っていた。
いつもの彼女とは違う、元気のない姿。
フェイトの心に重いものが広がった。
なのはの手もとには、コーヒーを容れたマグカップが置かれている。湯気も立っておらず、とっくに冷めているようだった。中身は減っている様には見えないから、恐らくほとんど口をつけていないのだろう。
憂愁に沈む顔を見て、フェイトは既視感とともに、スカリエッティ事件の渦中を思い起こした。
ヴィヴィオがさらわれた六課攻防戦の後。残骸の中に打ち捨てられたぬいぐるみが、どれほどなのはに衝撃を与えたか。
内心の感情を滅多に(あらわ)にする事が無かった、厳格な教導官の彼女が……フェイトの前で、激しく泣きじゃくった。
こんな取り乱したなのはを見たのは、重傷を負った時以来だった。幼なじみのフェイトだからこそ、胸のうちをぶちまけられたのだろう。
フェイトは静かになのはを励まし、行くべき方途(みち)を示唆した。再び闘志を奮い立たせたなのはは、ヴィヴィオを奪還する為に、勇躍して《聖王のゆりかご》へと飛んだ。

だが。ゆりかごは遊星主の介入で崩壊し、ヴィヴィオはなのはの元へは還って来なかった。
遊星主はヴィヴィオを連れ去り、絶望がまた、なのはを(さいな)んだ。
フェイトは無言でカップを手に、なのはの隣に座った。
「フェイトちゃん……」
か細い声が友人の名前を呼んだ。
フェイトは胸が痛んだ。そこにいたのは歴戦の航空魔導師ではなく、娘を奪われたか弱き母親の姿だったから。
……でも。なのははただの母親じゃない。
フェイトはそっと手をなのはの手に伸ばした。
自分の力を与えるかのように。二人の指が触れた。
「う、くっ……」
ぽろりと、滴がなのはの頬を伝った。
「……なのは」
「私……また、助けてあげられ……なかった……今度こそ、って、決めたのに──」
「しっかりして、なのは」
震える肩を、フェイトが抱いた。
こんなに小さな肩だったのかと、フェイトは驚いた。
「何が、エース・オブ・エースだ。娘一人救えないんじゃ……私、母親を名乗る資格なんて、ないよ!」
「そんなふうに自分を責めちゃだめだよ、なのは」
「どうしてなの……」
どうして、私は魔導師で、ヴィヴィオは聖王なの?
「娘と普通に暮らす、そんな家族で居たかっただけなのに……私……っ」
ただ、それだけでいい。ささやかに。穏やかに、親子で笑いあって過ごすだけでいい……。
──小さな願い。
潤む瞳から、涙が溢れた。
フェイトが涙滴をそっと拭う。
「──泣かないで」

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