ハーメルン
Joker in Phantom Land
敗北

「それで、えーと、どこまで話したか……そうだ、獅童を狙うことを決めたところまでですね」



少年達は宿敵を倒すため、万全の準備を整えてから、獅童のパレスへ挑んだ。
やはりと言うべきか、流石にと言うべきか、今までの相手とは桁違いの手強さだった。
認知の異世界は、その主である個人の思い入れの強い場所が、その主の欲望の姿によって歪み、変化する。

学校が城になり。
ボロボロの家が金ピカの美術館になり。
町一つが巨大な浮遊する銀行と歩くATMの大群になり。
小さな部屋が砂漠とピラミッドになり。
大企業が宇宙船と基地になる。

そして、獅童の場合。
国会議事堂が豪華客船となった。

国の舵取りをするのは自分しかいない。
例え国全体が沈もうと、自分だけは生き残る——

そんな傲慢な思想の具現化だった。

船の中は想像以上に広く、複雑だった。
そのいたるところに敵である怪物——シャドウがウヨウヨしていた。



「 ……シャドウ?」
「はい。あ、すいません、まだ説明してませんでしたね。シャドウとは認知の異世界に巣食う、人間の集合的無意識からなる化け物達です」

少年は説明する。

「ただ、強い欲望を持つパレスの主はそれぞれが自身のシャドウを持ちます。このシャドウは抑圧された自我であり、それを生み出した人間の一側面です。並のシャドウとは一線を画す強さも持っています」
「俺達ペルソナ使いのペルソナは、もともとこのシャドウです。シャドウと違うのは歪んだ欲望ではなくそれぞれの反逆心、反骨心に基づくもので理性的に制御できること」
「集合的無意識——というのは?」
「外の世界には多種多様な民族が存在しますが、不思議と共通して同じような感性を持つ部分があります。人間自体に特有のその共通する感性——普遍的な精神の集合体。それが集合的無意識です」

わかるようなわからないような話。

永琳だけは納得したような顔になっていたが、他の一同がいまひとつ得心のいかない様子なのを見てとり、少年はわかりやすい表現を探す。

「自分自身、完全に把握しているわけではないのであまりうまく表現できませんが……要は、ヒトの心が生み出した化け物ですね」
「ふぅん。そう聞くと、こっちでいう妖怪と大差無いような気がしてくるわね」

輝夜はそう呟いた。

「そうなんですか?」
「妖怪も人間の畏れや恐怖が無いと存在できないの。精神が根幹にある点は同じだと思うわ。…………話を遮ってごめんなさいね。続けて?」
「あ、はい。……とにかくその怪物(シャドウ)達はどんなパレスにも存在するんですが、獅童のパレスはちょっと事情が異なりました。元来、パレスの主はパレスの存在自体を知らず、パレスの中のことを知覚することも、記憶することもないんですが」
「違った、ということは……」
「獅童は、俺達の仲間の少女……その母親を謀殺し、彼女がしていた研究の成果を奪い、研究の存在を隠しました」

「その研究こそ、まさに『認知の異世界についての研究』でした」

「獅童はその研究を完璧に理解した訳でも、利用できた訳でもないですが……部分的には使いこなしていました」

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