第7話 研究の日々
魔法使いになったその日から私の日常は一変した。
パチュリーが話していた通り、お腹が減る事もなくなり夜になっても眠気が訪れなくなった為、必然的に眠る回数がどんどんと減って行って、空いた多くの時間を研究に費やすようになった。
それに時間に対する自分の認識も大きく変化した。
何と言えばいいか、〝一週間″のスピードが〝一日″のようにとても速く感じてしまうようになったのだ。
私が人間だった時、『妖怪達は時間に対してとてもおおらかで、あくせくと働く事がない』と聞いた事があって、実際に知り合いの妖怪達もぐうたらしてる奴が多かった。
それをまさに今痛感しており、人間だった頃よりもルーズな生活になってしまった。アリスが未だに食事と睡眠をしっかりとっているのも、もしかしたら日常にメリハリを持たせるためなのかもしれない。
だが悪い事ばかりではなく、良い事もある。
魔法使いになった瞬間から魔力の量がおおよそ五倍に増え、風向きや大気、地中を流れるマナの動向、星の動き等がはっきりと掴めるようになった。更に真暗な夜でも1㎞先まではっきりと視えるようにもなったし、箒を使わなくても自由に空を飛べるようにもなった。
人間だった時に『これは最強の魔法だ』と思っていた魔法も、今思い返せば陳腐な物に感じてしまい、その他にも数々の発見や驚きもあったが、まあ数を挙げるとキリがないのでこのくらいにする。
私は時々紅魔館に赴いてパチュリーに意見を求めたり、近くに住むアリスにちょっかいを掛けられたりしながらも、時間移動の理論を構築する為に研究に明け暮れた。
――時間移動の研究を開始してから一年経つが、一向に完成する気配がない。
果たしていつになったら終わるのだろう?
――時間移動の研究を開始してから五年後、ふと何気なしに鏡を見た時、毎年ちょびっとずつ伸びていた身長が止まっているのに気づいた。
相変わらず散らかり放題の自宅を漁り、人間だった頃の写真を掘り返してみる。
「おぉ」
鏡に写る今の自分の姿と見比べてみても全く姿形が変わっておらず、『ああ、私は本当に魔法使いになったんだな』と、この時強く実感した。
――時間移動の研究を開始してから十年後、咲夜が亡くなった。
永琳によると、死因は時間停止能力の使い過ぎによる副作用らしく、本来よりも早く寿命を迎えてしまったらしい。つい最近紅魔館でお喋りした時は元気そうに見えたので、まさかの死に衝撃を隠せない。
咲夜の葬式は、紅魔館で身内と親しい人間のみ集まってひっそりと執り行われた。
棺桶に入れられた彼女は、十代の頃の美しさを保ったまま綺麗な姿で眼を閉じており、すぐに動き出してもおかしくない遺体だった。
(『自分の体内時間を能力で止めているのよ』と生前に咲夜から直接聞いていたので、驚きはない)
悲しみに包まれた空気で粛々と行なわれた葬式で、レミリアが棺桶に縋りつきながら恥も外聞もなくワンワンと泣いていたのが、今も尚強く印象に残っている。
享年二十七歳、周囲の人々からとても惜しまれた死だった。
――時間移動の研究を開始してから二十年後、何気なく人里の中を歩いていたら、親父にばったりと遭遇してしまった。
二十年振りに再会した親父は、昔のような威厳がなく、白髪や顔の皺、肌のたるみが増えて前に会った時よりも目に見えて老いており、私は時の流れというモノを強く実感した。
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