第厄話
「母様母様コクト母様ー!」
「はいはいお帰りなさい」
「ただいまお勤めから戻りました! 集めた厄を神々に渡しました!」
「ああ、いつもお疲れ様だ。今日はもう休みなのか?」
「そうですね。明日から、また厄を集めに行ってきます」
「それなら、少し試飲に付き合ってくれないか。
混合酒に手を出してみたのだが、どうも好みが別れる味でな」
「喜んでご一緒させていただきます! コクト母様!」
百数十万年生きてきたが、まさか私が、母になる日が来るとは。
旦那は居ないし、欲しくも無いがな。
とりあえず、口調は私に似なくて良かった。
もう少し落ち着いた方が良いとも思うが、それは、成長すれば変わることだろう。多分。
幻想郷に来てから、千年前後か。相変わらず、私の時間感覚は適当だ。
新種の材料などを見付けたり、新しい製法を思い付いたりすると、百年単位で時間を忘れる。
夢中になれることがあるのは良いことだ。多分。
この千年間で、鬼共も幻想郷に来て、やがてどこかに去って行った。
相変わらずの蛮族だったが、あいつらにも、色々と考えることがあるのだろうか。
鬼共と懇意にしたせいで、私が天狗からやたら恐れられたが。
別に、噛み付いて来なければ、取って食ったりはしないのだがな。
おかげで、天狗の縄張りで山菜や果実などを採っても、監視だけで済むのは助かる。
連中は、私以外の者が天狗の領域に入ると、即座に襲ってくる。
自意識の強い奴らだ。面倒な。
調子づいて突っ掛かって来ない分、どこぞの狐よりは良いか。
本来この幻想郷に呼ばれた理由である、厄を撒くことによる情勢不安定化も行っている。
無論、紫からの依頼があった時だけだが。
こういうことは、仕事でも無い限り、やる気が起きない。
やった結果がどうなったかにも、興味が湧かない。
おそらく、強めに厄を撒いた時は、酷い有り様だったろうな、程度の感想である。
幻想郷の領内に厄を循環させ異界化し大規模な結界を創る下地云々、とかも言っていた。
良く分からん。
そんなことよりも酒だ酒。
幻想郷でも特に多くの妖怪が住むこの山は、自然が豊富で水も美味い。
紫の支援で、酒造設備も充実。
そして今日も、酒が美味い。
「外の吸血鬼が、幻想郷に攻めてきます」
「そうか。頑張れ」
「私がここに赴いた理由が、分からない貴女じゃないでしょう?」
「……えー」
「不満そうな顔をしても駄目。住民として働いてもらいますからね。
月へ攻め込む時は見逃してあげたのだから、観念しなさい」
紫に拉致されて、散々回避し続けた戦場に送り込まれた。
ヒトデナシめ。こいつも私も、人間では無いが。
前線を避けて、敵の拠点である館に侵入し、全力で館内に厄を撒き散らす。
今回の私の仕事である。
酷い扱いだ。
私は爆弾か何かか?
私の近くで戦闘するだけで敵も味方も死なせるので、前線から外されるのは、有り難いが。
改めて、私と日常的に喧嘩していた鬼共は、規格外である。頑丈過ぎるわ。
まあ、ともかく、だ。
仕事である以上は、役目をこなそう。
館の戦力は大半が外に出ているようだが、流石に防御は固めている。
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