第霧話
「コクトー! 遊ぼー!」
「言いながら弾幕を放つな破壊魔娘! せめて非殺傷に調整しろ!」
「あはははは! すごーい! 全部よけてるー!」
「4人に増えるな剣を出すな丸焼きになるわやめろ馬鹿っ!!」
「きゅっとしてーー」
「それは完全に殺意だろうが!」
「きゃー! ぶったねー! お姉さまにもぶたれたことないのにー!」
「打(ブ)ったのでは無く撃ったんだ今のは」
「えー、ダメだよコクト。そこは『ぶってなぜ悪いか!』って言うのが様式美なんだよ?」
「知らん。そもそも台詞が違ーーん? 何を言っているんだ私は?」
後日、遊びに付き合わされた侘びとして、紅魔館製の葡萄酒が届けられた。
なかなか良い仕事をしている。
物腰通りの丁寧な酒造だ、あの従者。
少々、何らかの能力で熟成を早めた臭いがあるが、それを差し引いても良い品だ。
許した。
幻想郷を、紅い霧が覆った。
私はと言えば、紫から依頼された厄撒きを終えて、自宅でまったり。
厄を撒くよう頼まれた、ということは、この現象も計画の内か。
先日施行された、スペルカードルールとやらと関係があるのだろうか。
前世の記憶が疼くので、おそらくこれも、予定調和なのだろうな。
それは良いが、湿気が多く酒造がしにくい。早く終われ。
「……いつまで続くのかしら?」
紅く染まった庭を眺め、雛が呟く。
その表情は不安に満ちている。
仕方の無いことだろう。
雛は、人々の厄災を引き受ける厄神様。
徹頭徹尾、この娘は『他人の役に立つ』ことが存在理由で存在意義だ。
そんな彼女にとって、厄が溢れながら動けないこの事態は、もどかしいに違いない。
厄の原因は、大体が私だが。
もしもばれて怒られたら、どうしようか。その時に考えよう。
「紫が動いたなら、博麗の巫女も動くのだろう。長くはかからんよ」
ビールのグラスを傾けつつ、雛と違い『自分のため』にしか生きない私が応える。
うむ。美味い。
「……コクト母様は落ち着いてますね」
「紫とも長い付き合いだしなぁ」
自分の箱庭の中の、自分が管理した現象について、あいつが仕損じるとは思えない。
あいつ曰く『異変』と呼んでいたこれは、全て手のひらの上だろう。
もしあいつが狂ってしまい、創った箱庭を引っくり返す気になったのなら、話は別だが。
アレが、そんなにも分かりやすい狂い方をするような、可愛らしいモノかよ。
「母様、何だか悪いことを考えていそうなお顔になっていますよ?」
「そうかい? そう思うのなら、そうなのだろうさ」
「………もう」
雛を見上げながら、わざとらしく、くつくつと悪党じみた笑い方をする私。
困ったように苦笑する雛。
小さかった雛も、随分と大人びた表情を見せるようになったものだ。
背丈を追い越されて……はて、何年になるか。いかんな。本気で思い出せん。
「……私も歳か」
「その外見で何を仰っているのですか」
雛が言った通り、私の見た目は初めて人型を得た時のまま、幼い少女のままだ。
今も、雛の膝の上に抱えられ座らされている。
後頭部に押し付けられる感触が柔らかい。
本当に成長したな、色々と。装飾の多い服を好むためか、普段は着痩せして見えるが。
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