ハーメルン
虎眼転生-異世界行っても無双する-
幕間『凶剣異界転移奇譚(まがつるぎいかいてんいきたん)

 
「さぁさ。そこ行く皆々様。おひとつ歌を聞いていかないかい?」

 人々の生活の活気が満ち溢れる街の中、一人の吟遊詩人が往来の人々に語りかける。
 噴水の縁に腰をかけ人々に声をかける吟遊詩人の様子は、その細指から奏でられる美しい竪琴の音と相まって人魚が船乗りを誘引するかのような光景であった。
 美しい音につられ、あっという間に人だかりが出来上がる。

 やがて集まった人々の前で吟遊詩人は本日の演目を高らかに謡い上げた。

「さて、今日の物語は運命の出会いを果たしながらも別れを余儀なくされた、緑髪の少女の歌を──」
「詩人のおねいさん! それ昨日も聞いたよ!」
「あり?」

 吟遊詩人の前に座っていた少年の言葉に周囲は苦笑いを浮かべる。既に昨日謡った内容を指摘された吟遊詩人も、やや羞恥で顔を赤らめながら居住まいを正した。

「ん、おっほん。それじゃあ、今日の物語は恋に恋する少女、運命の出会いを夢みた純白にして蒼穹の魔法少女の──」
「それはおととい聞いたよー」
「あ、あらぁ?」

 今度は少年の隣に座る少女が指摘する。周囲に集まっていた大人達も子供達の無邪気な指摘にたまらず笑い声を上げた。

「じ、じゃあ、今日の物語は情炎の契りを果たしながらも己の弱さと向き合い、孤高の試練に臨んだ朱色の乙女の──」
「それは三日前にきいたよ」
「ぉ、ぉぅ」

 少女の前に座る幼女にまでダメ出しが入る。子供達の容赦の無い指摘に、吟遊詩人は出だしの壮麗な様子から一変し滑稽な様子でまごついていた。その様子を見て周囲は増々笑い声を大きくする。

「くそう……ガキんちょだからって中2日程度じゃ誤魔化しきれなかったか……!」
「全部聞こえてんだけど!」
「もっとほかのお話ないのー?」
「しってるよ。こういうのネタ切れっていうんでしょ?」
「ぐぬぬ……」

 もはや当初の詩吟とは打って変わり、噴水の前は吟遊詩人と子供達の漫才の会場と化していた。
 ひとしきり周囲の笑い声が落ち着いたのを見計らい、吟遊詩人は再びその居住まいを正す。

「はぁー……仕方ないなぁ。あまり子供向けじゃないんだけれど、今日はとっておきの物語を聞かせてあげましょうか」

 竪琴を持ち直し、それまでの穏やかな音色から音調を変える。
 その音色は、過剰にして無謬、猥褻にして純潔な音色を奏でていた。

 竪琴の音色に併せ、吟遊詩人の謡声が辺りに満ちていく。
 その謡声は、聞く者全てを現し世とは異なる幻想なる世界へと誘うかのような……まるで、超常の者が放つ霊威に満ちたかのような謡声であった。







 さてさて……今日の物語は世界を超越し、怨々たる業を持ちながらも不退転の“火”を鮮やかに燃やす、散華の(かすみ)の歌を歌おうじゃないか──














「愉快じゃ!」

 宿場街を哄笑を上げ闊歩する一人の美女……否、美漢。
 その顔立ちは傾城の麗人とも眉目秀麗な美丈夫にも見てとれる。真紅の総髪を美麗に靡かせ、身に纏う綺羅びやかな陣羽織を揺らし、力強い足取りを見せていた。

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