depth.18 人間とさとり妖怪 上
なんとなく外が賑やかだ。
そう思ったのはいつのことだっただろう。
さして大きいわけではないがそこそこ繁栄している里はいつも騒がしいもの。特にこの時間は人々が活発になっている時間だ。
だが人の賑やかさには違いがある。100年近く住んでいると自ずとわかってくる。
この騒がしさはどちらかと言えば来客…それも大勢の旅集団がきたときのものと似ている。
この時代の旅人は、面白い話を持ってきてくれる人のようなもので娯楽の少ない人々の数少ない楽しみの一つでもある。
だがそれにしては不穏な空気というか少しピリピリしている。
招かれざる客といったところだろうか。
隣で魔導書を読んでいたこいしも外の様子が変だと言うことに気づいたようで、青みがかった瞳がこちらを無言で見つめてきている。
お燐は…まあ察しているのだろうが大して気にしてはいなようだ。私達が大袈裟なだけだろうか。
まあ言ってしまえば人間が何をしようと気にすることはないのだが…こちらに影響するものであれば手を打たないと行けない。特にこいし達が危険に晒されるようなものであれば直ぐに対処しなければならない。気が進まないのですが、ちょっと様子を見てきましょう。
「ちょっと外の様子を見てくるわ」
(行ってらっしゃい)
「お姉ちゃん行ってらっしゃい。あ、そうだ。なんか面白いものがあったら買ってきてよ」
面白いもの…まあ本とかそう言うのを買ってこいと言ってるのだろう。
余裕があれば買ってきましょうか。
「分かったわ」
昼下がりとは言えまだまだ暑い。
直射日光に当たるのは体に悪いし嫌いなのでこの季節のこの時間は好きになれない。
まあ草木が青々茂っているのは好きなのですけど…そうだ。いつか薔薇を育ててみようかしら。
お目当てと思われる人達はすぐに見つかった。そりゃ旅人がいれば里の人達も集まっているわけだし場所くらいは簡単にわかる。
目立たないように近づき集まりの中心の方に意識を向ける。
見た感じでは複数名…なにやらここの人達と話し込んでいるようだがどうにも表情が浮かれない。
普段であればもうちょっと楽しそうにするはずですけど…
一瞬、集団の隅にいた巫女装束の女性と目があった。
同時に、寒気がして身体中に鳥肌が立つ。人混みのの中でかき回されてしまっているがかなり濃い霊力が流れている。それが私の肌に照射されたのだ。
いくら妖力を隠しているからバレづらいとは言え気持ちの良いものではない。
軽く会釈して彼女の視界から逃れるように移動する。
どんな人たちなのかは知りませんがあまり歓迎されてはいないようです。服装からして妖怪退治や戦闘を専門に扱う人の集団なのは間違いないですが…だとすればこの里に来ても無意味に近い。ここの地域は東の方にある神社ひとつで事足りる程度でしかない。
そして十分離れているにも関わらず鼻をつくような匂いが彼らから漂ってくる。よく嗅いだことのある人か、私のように妖怪である者なら忘れようがない匂い。
「血の匂い…」
私の中で警戒度が上がる。ここまで離れて漂ってくると言うことは相当浴びた証なのだ。そしてそのような人は躊躇がない。いわば、理性のリミッターが外れているのだ。
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