ハーメルン
除霊師・安倍あやめの非日常的日常譚
迷惑な人々(4/5)

 そして、その日の昼休み。
 一緒に昼食を摂ることがもはや日常となったあやめと清音と春は、春が自分の椅子を2人の席に持ち寄る形で集まり、それぞれ弁当を広げていた。

「ねぇ、そのおかず、昨日も見た気がするんだけど」

 あやめの弁当を横から覗き込んでいた清音がそう問い掛けると、あやめは何でも無いかのように頷いた。

「はい、昨日と同じですよ。スーパーで安売りしていたのを大量に買ったんで、後1週間はこれが続くと思います」
「……安倍さん、そのおかずとこれ、交換しよ?」
「ありがとうございます」

 そんな遣り取りで始まった昼食は、いつものように清音が喋り倒し、それに春が突っ込み、あやめが黙ってそれを聞いている、という図式になっていった。
 そして3人の弁当の中身が半分にまで減った頃、

「あ、そういえば」
「どうしたの、清音?」

 何かを思い出したように唐突に声をあげた清音に、春が問い掛けた。
 しかし清音は彼女にではなく、あやめに対してニヤニヤと気味の悪い笑みを向けた。彼女の言葉を無視して弁当を食べようとしていたあやめも、さすがにそこまでされて無視することはできない。
 あやめが清音へと視線を向けたのを見計らって、清音は口を開いた。

「佐久間くん、早退したんだって」
「……へぇ、そうですか」

 それを聞いて、あやめは先程の彼との会話を思い出した。
 術を教えてほしいという明に、それを拒否するあやめ。その代わりにあやめが与えた、術を成功させるためのヒント。
 そして、その直後の明の早退。
 もしも彼の早退の原因に、先程の会話が関係するならば、

「どうしたの、あやめ? 気になる?」

 清音の質問にあやめは答えず、いそいそと弁当を片づけ始めた。弁当をいつもの巾着袋に入れると、席を立って教室を出ていこうとする。
 清音と春は慌てて自分の弁当を持つと、彼女の後を追い掛けていった。

「どうしたの、安倍さん?」
「いえ、たまには気分を変えて、屋上で食べようかと思いまして」
「屋上?」

 確かにこの中学校は屋上に鍵が掛かっておらず、弁当は教室で食べなければいけないという校則があるわけでもない。なので屋上で昼食を摂る生徒の姿もよく見掛けるが、今日は何だか空模様が怪しくいつ雨が降るか分からないため、わざわざ屋上へ行こうとする者はいなかった。
 そしてあやめは、たとえ雲1つ無い快晴の日でさえ、わざわざ屋上まで足を運んで昼食を摂るようなタイプではなかった。

「ねぇねぇあやめ、私達も一緒に来て良いかな?」

 清音の申し出に、あやめは少しだけ考える素振りを見せて、

「別に、構いませんよ」

 それを聞いて満面の笑みを浮かべて礼を言う清音に、不思議そうに首をかしげる春。
 そんな2人を後ろに引き連れて、あやめは屋上へ続く階段を昇っていった。


 *         *         *


 学校から歩いて30分ほどの場所にある、ごくごく平凡な住宅街。平日の昼間という時間帯もあり、小学生以上の子供の姿はほとんど無く、せいぜい母親に手を引かれたりベビーカーに乗るほどに幼い子供しか見掛けない。
 ところが或る電柱の根本にて、Tシャツに短パンというラフな格好をした小学校低学年くらいの少年がひっそりと佇んでいた。それだけでも珍しいというのに、あろう事か彼の頭から真っ赤な血が滲んでいた。

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