ハーメルン
仮面ライダー NEXTジェネレーションズ
第一話:僕の時間はなぜ進んだのか(3)

 --三ヶ月前。
 久留間ドライビングスクール。ロビー。

 改名と改築をしてしばらく経過したこの施設では、洗練された設備と、徹底したカリキュラム、一流の教習車の恩恵にあずかり、日夜多くの運転手を輩出していた。

 その日も、知識、運転技術、そしてメンタル面でのテストを無事にパスし、一人の若きドライバーが、誕生した。

「僕は今、免許を持っている」
〈なんだそりゃ〉

 端末越しに、声を低めておどけると、叔父の呆れたような声が聞こえてきた。
 だが、いつもの底抜けに明るい調子に戻って、

〈その口ぶりだと、無事合格したみてーだな。おめでとさん〉

 と労ってきくれた。

〈さっすが、進兄さんの息子。……そっかぁ、あのひとも、我が子の助手席に乗るときが来たのかァ〉
 という感慨深げなセリフは、どうにも気に入らなかったが。

「父さんは関係ないから。っていうか僕、自動操縦(オート)に全部任せるつもりだし。今時手動で運転してるのなんて、旧車(くるま)オタクの父さんぐらいなもんでしょ」

 進歩したAIの普及により、自動運転機能が取り付けられて十年以上が経つ。二〇一七年の夏に公道における試運転が成功し、そこから爆発的に普及していった。
 その間にも人工知能は進化を続け、今や自分でハンドルを握って運転するよりも、車自体の判断に任せるというのが大半だ。
 オートの導入前後と比べても、事故率は劇的に減少していた。

 自律した機械生命体ロイミュードと戦っていた父たちにとっては皮肉なことだろうが、これも時代の流れというものだろう。

〈冷めてるねぇ。反抗期ってヤツ?〉

 と、叔父は微妙な距離感となった親子関係に容赦なく突っ込んでくる。だが、そこに刺々しさはない。
 それを言えば、「これも人徳」などと叔父……詩島(しじま)(ごう)その人は返すだろうが。

 ふだん警察の仕事で家にいない父より、よほど接しやすい相手ではあった。

〈まぁ何はともあれ、これでお前も大人の仲間入りってワケだな〉
「うん。ありがとう、叔父さん。今度車買ったらさ、家まで遊びに行くよ。令子(れいこ)叔母さんにもよろしくね」

 そう締めくくって、通話を切る。
 そして、真新しい免許証を、ガラスの壁越しに太陽にかざしてみせた。
 微妙にひきつった顔写真が、自分自身を見返していた。

 あらゆるものがデータ化され、記録され、認証も即座にできるようになって久しい。そんな現在においても、みずからの身分を証明できるものは、こうして形に残しておくものらしい。

 もちろん、「大人の仲間入り」と言われて悪い気はしない。

(でも、その大人ってのになってやりたいことが、僕にはないんだよなぁ……〉

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