十二、ハイブリッド型主人公
こうやって、何故か無性に寂しくなって涙が止まらなくなることは、前にも一度あったことだった。
浦原商店の面々に拾われて、初めて喜助さんたちと話をした……あの時だ。そういえばあの時も、泣いてしまったキッカケは『親』だった。
それでも、あの時は今回のように見知らぬ女性が思い浮かぶことはなかった。
一体あの人は、誰なんだろう?
聞いたことがないはずなのに、どこか懐かしい声だった。
単に寂しくなって泣いてしまうだけだったならともかく……こうなってくると、ただの情緒不安定だとか精神的な何かだとか、そういうものでは説明しきれない。
まるで、目の前にいる人と頭の中にいる人を重ねてしまっているような――あ……もしかして。
もしかして、これは――
「そろそろ、落ち着いた?」
「あ……はい。何か、すみません……」
「また何かあったら胸を貸してあげるから気にしないの、ね?」
「いや、えっと……ありがとうございます……?」
何だかちょっと論点がズレてるような……この人意外と天然なのかな?
「さて、と。桜花ちゃんの用事の方、まだだったわよね?」
「あー……そう、ですね」
頷く。その前の出来事が衝撃的すぎて忘れるところだった。
「よし、一護。遊子と夏梨のお世話、お父さんと代わってきてくれない?」
「えっ? オレだって話聞きたいよ!」
「一護にはもう話したでしょう? だから順番、ね?」
「……分かったよ」
不本意そうな表情ながら一護は頷いて、二階に上がって行った。その背中を見送ってから、そっと真咲さんに訊ねる。
「良いんですか? 真咲さん」
「うちの主人のことかしら?」
「はい」
「良いのよ、あの人は全部知ってるから」
「……そうですか」
それを私に言って良いのか。
まぁ私としては元から知ってたから構わないんだけどさ。
それから数分ほどして、一護と入れ替わるように見覚えのあるガッシリした体型の男の人が一階に降りてきた。
「お、久しぶりだな。桜花ちゃん、だっけか。オレのこと覚えてるか?」
「えぇと、一護のお父さんですよね」
「それじゃ呼びにくいだろ。一心だ。黒崎一心」
リビングに入ってくるなり、一心さんは気さくな態度で自己紹介をしてくれた。
普通のおじさんに見えるけど元は隊長格の死神なんだよなぁ、なんていう思考は置いておく。そっちを気にしていると、本題に集中できなくなってしまうからだ。
「今日は、真咲さんにどうしても聞きたいことがあって来たんです」
これこそが、今日の私の本題だ。
いざとなると聞きづらいものがあるけれど、そんなことも言っていられない。
私は意を決して口を開いた。
「真咲さん。死神とは何か、知ってますか?」
「……」
真咲さんと一心さんが、じっと私を見つめる。私もそれを見つめ返す。
どのくらいそうしていただろうか、真咲さんはふっと息を漏らして、そして答えてくれた。
「……知ってるわ。死神も虚も尸魂界も、全て」
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