十三、格上の存在
小四の夏休みが始まって二週間目、ある日の昼下がり。
毎日毎日飽きもせず照りつける太陽の下、浦原商店は今日も元気に営業中だった。
夏休みの宿題を早々に終わらせた私はすることもなく、学校から借りてきた小説を片手に店番を任されていた。
しがない駄菓子屋といえど今は夏休み、子ども達の来店はいつもの午後より断然多い。それでも、客なんて一時間に二、三人しか来ないんだけれど。
最後の客が帰ってから三十分。そろそろ次の客が来るだろうとは思いつつ、小説の次のページに目を落とした、その時。ガラガラと引き戸を開ける音が聞こえた。
客だ。本に栞を挟んで閉じる。
それから、ニッコリ営業スマイルで。
「いらっしゃいま――」
「おうおうおう! 何やこのクソガキは? 見たことない顔やなぁ、えぇ?!」
「……はい?」
……今、クソガキって言った?
え、初対面の開口一番に? 女の子だよね、この子?
衝撃で頬が引きつりそうになるのを抑えつつ、営業スマイルは崩さない。
「あ、どーも……桜花っていいます、はじめまし――」
「誰もお前の名前なんか聞いとらんわ! あんのクソボケと似たよーなユッルイ喋り方しよってからに! 何や腹立つなぁ!!」
「あの……えっと……」
派手な金髪でツインテール。真っ赤なジャージ。つり上がった大きな目。そばかす。
そしてこの、口の悪さ。
……私、この人のこと知ってるかもしれない。
「ウチはココのハゲ店長に用があるんや! モゴモゴ喋くっとらんでさっさと呼んで来んかいクソガキ!」
「えぇぇ……理不尽だなぁもう……」
黙っていればかわいいだろうに……全く……
営業スマイルを保つことを止めた私は苦笑いで場を濁して、喜助さんを呼びに店の奥に引っ込んだ。
「喜助さん、何かあり得ないくらい口が悪い女の子が呼んでるけど……知り合い?」
「あぁ、そういえばもうそんな時期ですね」
居間で鉄裁さんとくつろいでいた喜助さんに声を掛ける。喜助さんは「そういえば」とポンと手を打って、それからニヤリと笑った。
「……強烈でしょう? 彼女」
「強烈っていうか……刺激物だよ、あれは」
喜助さんの知り合いだった。
つまり、私の予想通り。
「ハハハ、あながち間違いでもないっスね……じゃ、行きましょうか。あまり待たせるとまた面倒なことになる。鉄裁サン、店番よろしくお願いします」
「承知いたしました」
店番? 今から店に出るのに?
私は首をひねりつつ、喜助さんの後について店先に向かった。
「いやあ、お久しぶりっスね。ひよ里サ――ぶっ!?」
「遅いわ! ハゲェ!!」
「えぇぇ……」
喜助さんが店内に顔を出した途端、その身体が後ろに吹っ飛んだ。
とんでもなく口の悪い女の子――猿柿ひよ里さんがその顔面に飛び蹴りを食らわせたからだった。
「イテテ……久しぶりなのに酷いなぁ、ひよ里サン……」
「蹴飛ばしとうなるよーな顔しとるお前が悪いんや!」
「そんなこと言われたって……」
喜助さん、何でもないように笑ってるけど鼻血出てるよ……良いのか、それで……
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/7
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク