王子と姫と白い仔猫・6
アスナからうるうると懇願の瞳で見つめられたキリトはすぐさま国元に使いを出した。
結果、ユークリネ王国離宮での滞在を「数日なら」と国王から許しを得て、その夜は大急ぎで用意された客室のベッドに身体を横たえる。
翌朝、連れてきた従者に起こされて身なりを整え食堂に行ってみれば、そこには既にリズの姿があった。
「おはよう、キリト」
「ああ、おはよう、リズ」
キリトの着座を待って給仕の侍女達がスープを運んできた。
「よく眠れた?」
「うん、最初は夜行性の鳥や動物たちの鳴き声が気になったけど、いつの間にか寝てたな」
「ならよかった」
「……アスナは?……朝食は一緒に食べないのか?」
「ああ……アスナね……うん、あの子はいいのよ」
「王女だからって一人で食べてるなら、違うと思うぞ」
「そうじゃないんだけど……」
どう言おうか、とリズが思案顔になっていると、後ろに控えていた侍女が一歩踏み出して「リズちゃん」と声をかけた。
「キリトゥルムライン殿下は姫様の為に離宮に留まっていただいているのですから、正直にお話したら?」
その助言に後押しされたようにリズが背筋を伸ばし、改めてキリトの顔を見つめる
キリトもその表情から何かを察して手にしていたスープスプーンを静かに皿に戻した。
「アスナはね……夜半からまた熱が上がったの」
「えっ」
動揺が手からスプーンに伝わり、カチャッとスープ皿の縁を引っ掻く耳障りな音が響く。
驚いたキリトに向け、ほんの少し困ったように笑うリズは軽く手を振りながら「毎日なのよ」と言うと、目の前のスープを口に運んでから「アンタも温かいうちに食べなさい」と食事を促した。
「最初に言っておくわ。アスナは病気療養ってことでココに来てるけど、周りの人間にうつるような病気じゃないから安心して」
その言葉にキリトは素直に頷く。
うつるような病気だったらアスナの私室に入ることなど出来ないだろうし、そもそも父王が王子である息子を見舞いには行かせないだろう。
「あの子ね、王宮にいた時から夜中になると熱を出してたの。でもあの性格でしょ。周りの人間には言わずに我慢してて、でもそんなの隠し通せるはずないじゃない。それでしばらくは王宮で様子を見てたんだけど、家族は王族としての仕事をしてるのに自分は具合が悪くて寝ているのがいたたまれないみたいで……」
「そんなの、病人なら当たり前だろ」
「本人もそう思ってくれれば私達も助かるんだけどね」
焼きたての香ばしいパンの匂いに我慢出来なくなったのか、キリトがそのひとつに手を伸ばしながら「それで」と話の先を請う。
「元々アスナは自分が役立たずだって思い込んでるところがあって、それで勉強も人一倍してるし、王都に出向いたりしてみんなの生活ぶりを観察したりもしてるし、私から見れば十分やってると思うんだけど本人は全然納得してないの……だから熱の原因はストレス。自分の一日を他の王族の一日と比べて、まだまだだって思っちゃうのね。だから国王様が家族の様子が気にならないよう離宮での療養を言い渡して下さったんだけど、こっちに来ても気持ちが焦るばかりで」
「それで夜になると熱が上がるのか?」
「そう、その日一日を反省して、悔やんで、落ち込んで……とまあそんな感じなのかしらね。だから朝はベッドの上で軽く食事を摂って薬を飲むのが毎日なのよ」
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