ハーメルン
真・恋姫†無双 魏伝アフター
04:三国連合~呉/一路、呉国へ②

12/しばしの別れ……の前に

 待てって言ったんだ。俺は待てって言った……言ったのに……。

「腹……へったなぁああ……」

 気づけば夜が訪れようとしていた。
 沈みゆく太陽が空を茜色に変えていく中で、考えてみれば朝からなにも食べていないことを懸命に叫ぶ俺の腹。
 なのに凪も真桜も沙和も、途中から混ざった霞も春蘭も秋蘭も、面白がって俺になにかを教えようとした。
 霞は騎馬兵法、春蘭はもちろん剣で、秋蘭は弓だった。
 当然ながらそんないっぺんに出来るはずもなく、懸命に学ぼうとするのも空回りなままに、氣の集中に失敗したり絡繰を壊して怒られたり、意匠なら俺も詳しいぞとうっかり言ってしまって拗ねられたり、馬にくくりつけられ引きずり回されたり、刃引きされた剣でボッコボコにされたり鏃を潰した矢で狙い撃ちされたりと、まあロクな目には遭わなかった。

「はぁ~あ……」

 ヒリヒリと痛む背中をさする。
 霞に馬で引きずり回された時に痛めた場所だ。
 まさか三国志時代で西部劇みたいなことをされるとは思ってもみなかった。

  “今回だけや……こんなん許すんは、今回だけなんやからな……?”

 思い出すのは、再会を果たしたあの時のこと。
 宴の夜に説明はしたけど、やっぱり納得なんて出来なかったんだろう。
 “一刀のうそつきー! あほー!”と言いながら、縄で縛った俺を引きずり回す霞はとても恐ろしかったです。

「どこにも行かないって言葉に頷いた矢先だもんな……そりゃ怒るさ」

 しかも向かう先が呉だっていうんだから、“天の国まで行って俺を奪い返す”なんて言葉も果たされることがないわけで。
 それが余計に悔しかったのか、俺はちょっとした罪人気分で街の外の草原をゴシャーアーと滑走させられたのでした。
 服……破れなくてよかった。代わりに頭にあった宝譿は見るも無残にグシャグシャだったが。
 真桜には元の宝譿に戻すようにって厳重注意をしたから、今度こそ大丈夫だろう。
 それよりもだ。

「……今は痛みよりも空腹をなんとかしたい……」

 ところどころに青痣が出来てるけど、空腹の状態で今まで訓練めいたことをやっていたのだ、いい加減限界だ。
 なにを食べようかと考えながら動かす足は、街のほうへと向かっている。
 炒飯、水餃子、拉麺、メンマ丼もいいし……青椒肉絲や麻婆豆腐と白飯もいいな。
 ああ、考えるだけで夢が広がる。へっているお腹がさらにへっていくようだ。

「……よし! 麻婆豆腐に決まりっ! それと白飯!」

 いわゆる麻婆丼である。がっつり食いたいし餃子もつけよう。
 あとは様子を見ながら追加をするのもいいし…………おお、ツバが出てきた。

(絶対大盛りで食おう)

 にやける顔を押し殺すような顔でごくりと喉を鳴らして、食事に想いを馳せた。
 追加分の料金も頭に入れておかないとな───、……ん? りょ、料金? りょ……料金だろ? りょ……はうあ!

「しまった」

 心がすっかり麻婆丼の魅力に包まれている中で、気づかなきゃいけないことだけど気づきたくなかったことに気づいてしまった。

「……俺、金持ってないじゃん……」

 ごくり、ってツバ飲んでる場合じゃないだろおい! 魏に戻ってきてから何度泣きたくなれば気が済むんだよ俺ぇええ!!

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