05:呉/青少年の心の葛藤②
……と、脳内手紙を華琳に出し終えたのち、現実に戻ってみれば……
「北郷……貴様は曹魏からの大切な客人だ……だが! だからといって小蓮をかどわかし、おおぉおおおとっ、おとととっ……! おとっ、大人の話がどうとかなどとっ!!」
ただいま、中庭に正座させられた僕の前には孫権さんが居ます。
宴の時、華琳にやらされてたのを見て、これが罰になるんだと思っているようで……。
いや、正座は望むところだよ? こう、修行してた頃を思い出して気が引き締まるし。
引き締まるんだけどさ……───なんで怒られてるんだろ、俺……。
「あ、あーのー……孫権さん? 雪蓮と」
「っ!」
「ヒィッ!?」
雪蓮の真名を口にした途端、キッと睨まれてしまった。
思わずヒィとか喉を鳴らしてしまった自分に、真剣に赤面。ヒィはないだろヒィは……。
「あ、あー……その、えぇっ……とぉお……!? ───あっ、そ、孫策……と、大事な話、してたんじゃっ……!?」
「そんなことはどうでもいい!」
「は、はいぃっ!」
……うん、とりあえず結論。
孫呉の人、基本的に僕の話を聞いてくれません。
この場合は話を逸らそうとした俺が悪いんだろうけど、それ以前に俺の話を聞いてくれないし……。
孫権は高貴な者の心得を実践して見せているだけだって陸遜は言うけど……これ、思い切り嫌われてるんじゃないのか?
いや、今はまず誤解を解くところからだ。孫尚香は孫権が来るや逃走しちゃうし、呂蒙もいつの間にか居なくなってるし…………あれ? 視線を感じ───ってうぉおっ!!?
(甘寧!? なんであんなところに……!)
中庭の中央から見える休憩所。
その柱の影から、顔半分だけを出して“ゴゴゴゴ……!”と睨むお方がおりました。
……うん、とりあえず逃げられないってことだけはよ~くわかった気がします。
「あの……もう一度確認していいかな……。なんで俺、怒られてるの……?」
「貴様が我が妹、小蓮をたぶらかそうとしたからでしょう!?」
あ。なんか今、素で怒られたって感じがした。
どうしてかなって考えてみて、そういえば今の言葉だけは、“でしょう”って……王族としてじゃなく、孫権としての言葉だったからかな……って思った。
相変わらず“貴様”呼ばわりだけど。
「ん……とりあえず、まずはちゃんと聞いて。誤解があるから解かせてほしい」
「誤解などないっ! 曹魏の客人だからと、姉様が認めたからと容認していればこのようなっ───」
「……聞いてくれ。な? “王族だ”って自負するなら、まずはどんな声も耳にしてやれる自分であってほしい。感情任せに怒鳴ったら、起こさないで済む諍いも起こるよ」
「うぐっ……」
正座をしながら、なによりもまず自分を落ち着かせて一言。
偉そうに言っておいて、たぶん自分が一番ドキドキしてる。
王族に王族としての態度を説くなんて、よほどの馬鹿じゃないと出来ない、というかやらない。
けど、一番近くでとは言わないまでも、華琳の傍で彼女の凛々しさ、“王としての然”を見てきた。そんな俺だから、一言くらいは許してほしい。
……華琳もあれで結構、人の話を“最後まで”聞いてくれなかったけどさ。
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/8
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク