長門とカレーライス
翌日の夜の大食堂。
演習から戻ってから、ゆっくり風呂に浸かった陸奥は、やや遅めに食堂に着いた。
朝は艦種ごとの指定席制だが、夕食は到着順に席に着くことになっている。
今日は金曜日、食堂内には恒例のカレーの香りが充満している。
「伊勢、私のカレー持ってきてくれない?」
陸奥は向かいの席に座る伊勢に頼んだ。
出撃や演習から帰ってきて疲れている艦娘の夕飯の配膳は、非番や軽い遠征任務だった艦娘がやってあげるのが、暗黙のルールになっている。
しかし、頼まれた非番組の伊勢はニヤニヤと笑いながら、首を横に振った。
さらに、陸奥が座った席の隣にいた阿武隈が、あわてて自分のトレイを持って席を立つ。
「なに!? 私、ハブられてる?」
軽くへこむ陸奥のもとに、駆逐艦娘の江風がカレーを運んできた。
「ほいほい~、陸奥さん用特盛カレーお待たせぇ!」
陸奥の前に、ドカンと山盛りのカレーライスが置かれる。
「赤城や大和じゃあるまいし、私はこんなに……」
「いいから全部食え」
文句を言いかける陸奥の隣、阿武隈が空けた席に、長門がカレーライスをのせたトレイを持って座った。
「がんばっているお前のために、私と五十鈴、江風、涼風、そして提督で作ったカレーだ」
そして、陸奥の頭をポンポンと優しく撫でる。
「今日もお疲れ様だったな、陸奥」
「青葉、ベストショットいただきました!」
【提督のひとりごと】
巨大な寸胴鍋で、水から鶏ガラ、玉葱、ニンジン、セロリ、ニンニク、マッシュルーム、しめじ、野菜くずを煮込んでブイヨン(ダシ汁)を作る。
一方で、大量の玉ねぎのみじん切りをあめ色に炒め、肉はいったん塊ごと赤ワインで柔らかく煮込んでおく。
うちの鎮守府のカレーの旨さの秘訣といえば、これぐらい。
手間を惜しまず、基本の仕事を丁寧にやること。
この基本さえしっかり押さえておけば、味の調整はどうとでもなる。
今回はゴロッと切ったニンジンと玉ねぎ、ジャガイモを入れ、市販のカレールウにカレー粉とガラムマサラ、ウスターソース、はちみつ、すりおろしリンゴ、隠し味に由良が名古屋みやげに買ってきてくれた八丁味噌を加えて、長門好みの甘めよりに仕上げてみた。
陸奥も長門も、笑顔で美味しそうに食べてくれている。
しかし、もう少し艦隊全体に気を配らなくちゃなあ。
心から反省です。
新人が鎮守府に馴染めるかや、幼い駆逐艦たち、陸奥のように特定の艦に負担をかけていることには、特に気にしてフォローしてきたつもりだけど。
逆に長門のように、気心が知れるし頼りになるからと、今まで上手くいっていた経験から安心しすぎて目が届かなくなっていた、現状に悩んでいる大きな子が他にもいるかもしれないね。
艦娘全員と、もう一度きちんと丁寧に接し直してみよう。
そう、人間関係も料理と同じ、手間を惜しまないことが大事なんだと思う。
それはそうと、僕もカレーを食べようか。
カレーだカレーだ、みんな大好きカレーライス。
いただきます!
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