ハーメルン
ある鎮守府のエンゲル係数
択捉とオイルサーディン丼

雨が降ったり降らなかったり、何かと鬱陶しい梅雨の時期。

それでも熟した梅で梅干しや梅酒を作ったり、みんなで恒例のてるてる坊主を作ってみたり、雨の合間に鳳翔さんの洗濯物干しを手伝ったり。
梅雨ならではの楽しみもある。

さて、新調してもらった梅雨対応艤装で帰投した、海防艦娘の択捉(えとろふ)ちゃん。
随伴には同じく海防艦娘の八丈と石垣、監督役に軽巡洋艦娘の龍田お姉さん。

「龍田さん、ありがとうございました!」
「択捉ちゃん、見事なMVPだったわよ。特にソ級を一撃で仕留めたのは立派よぉ」

工廠に戻り、借り物のGFCS Mk.37レーダーを外しながら、お礼を言う択捉を龍田が褒める。

照れる択捉に、海防艦娘の佐渡と松輪が近づいてきた。

「えと、その顔はMVPみたいだなっ」
「択捉ちゃん……おめでとう」

近海の対潜哨戒でMVPをとりキラキラした海防艦娘たちで、海峡警備行動に出かけるのが最近の鎮守府の定番遠征。
先に失ったバケツの回復が急務なのだ。

「司令がお昼御馳走してくれるってさ、はちといしも早く来いよっ」

佐渡に手を引っ張られるように工廠を出ようとして……。
龍田にもう一度ペコリと頭を下げる、律儀な択捉だった。





お米が炊ける良い匂いが溢れる鎮守府庁舎のキッチンでは、エプロン姿の提督が海防艦娘たちを待っている。

今日のメニューは、マイワシのオイルサーディン丼。

曙たちが大量に釣ってきた肉厚なイワシを手開きにして骨をとり、塩水に浸した後、良質のひまわり油と、鎮守府の畑でとれた赤唐辛子、ニンニク、ローリエ、タイム、粒コショウとともに、じっくりじんわりと遠い弱火にかけた、自家製オイルサーディン。

ただでさえバカみたいに美味いこのオイルサーディンをですね、熱々の炊き立てご飯にかけるわけです。

後は、酒を少し足した醤油をタラタラッと回しかけ、小口切りにした万能ねぎをちらすだけ。

この時期のイワシは入梅イワシと呼ばれ、とにかく身に脂がのっていて美味しい。

食堂の地下では、間宮と鳳翔さんとゴトランド、イタリア艦娘たちなどが競ってオイルサーディンの缶詰量産体制に入っている。

イワシの種類や骨の有無、塩加減、オイルの種類などで、艦娘によって様々なオイルサーディンが出来上がるが、例えるなら間宮のは万人に愛される安心のマルハニチロ、鳳翔さんのは豪華で上品な天の橋立、イタリア艦娘たちのは地中海風な味わいがワインに合うK&Kフーズ缶つま……という具合だ。

それはいいのだが、着任から1年せずに世界の名門キングオスカー風のオイルサーディン缶詰の量産に着手してるゴトランドの適応力に驚かされる。

海防艦娘(こども)たちが喜んでガツガツとオイルサーディン丼を食べる姿を想像して微笑みながら、提督は窓際につるされたてるてる坊主をつつくのだった。





鎮守府庁舎に入ろうと雨傘をたたもうとする択捉に、入れ違いに出て行こうとする春風がふと声をかけた。

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