村雨とアジフライ
「こっちの方が、農作物を植えた後の畝の間とか、狭いとこの作業がしやすいんだよ」
「へえ~」
「その名も『けずっ太郎』!」
「……うふふふっ♪」
「ぽい~?」
「あ、あの、面白かったです…よ?」
「あははは……」
「いや、ちょっと待って! ダジャレとかじゃないから! これの商品名!」
「はいはい」
「本当だって! そのスベッた子を見るような生温かい視線はやめて!」
※“信頼をお届けするハサミのパイオニア”株式会社ドウカンの『けずっ太郎』は、全国の園芸店、ホームセンター、アマゾン通販で実際にお買い求めになれます。
・
・
・
お昼前まで作業を続け、村雨たちは陽炎と黒潮の言葉の意味を実感していた。
実際に中に入って作業を始めてみると、1反というのは非常に広い。
何しろ、六畳の部屋に換算すると約100室分もあるのだ。
午後には、那珂と野分たち第四駆逐隊が応援に来るとはいえ、本当に今日中に終わるのだろうか?
雑草を除去した後には、小石を取り除く作業もあるのに……。
だが、そんな心配より、まずはお腹が減っていた。
お昼は大鯨が、明石が製作した一三式自走炊具で出前に来てくれた。
2トントラックの荷台がガルウィング式に開くと、移動中にすでに炊き上がっていたのだろう、ご飯の甘い匂いが漂ってくる。
大鯨が揚げ物用のフライヤーでフライを揚げていく横で、デニムのオーバーオールにネルシャツを着て、頭にバンダナを巻いた見慣れない艦娘が、ご飯や味噌汁を用意している。
陽炎と黒潮が手慣れた感じで農具小屋からパイプ椅子や折り畳みテーブルを運び出し、食事場所を設営してくれた。
メニューは「アジフライ定食」だ。
千切りキャベツの上には、揚げたての大きくて身が厚いアジフライが2枚と、おまけのカキフライ。
1枚のアジフライにはたっぷりの自家製タルタルソース、もう1枚には何もかけられておらず、ソースや醤油を自分で選べる。
まずはタルタルソースの1枚。
箸がザクザクと入る熱々の衣の下には、脂ののった肉厚のアジ。
ふわふわの身がほぐれ、じんわりと濃い味が広がる。
タルタルソースはそれに負けないよう、酸味がしっかりと効いている。
「アジは味が良いからアジって言うんだよ」
鬼怒が言うが、みんなアジフライに夢中で聞いていない。
鬼怒の名誉のために付け加えるが、教科書にも名前が出る新井白石が、江戸時代の語源辞典の中で書いている説で、断じて鬼怒の創作ダシャレではない。
ふっくら粒だちがよく、甘みと旨味が強いご飯が、さらにアジフライの旨味を押し上げる。
すぐに、あちこちから「おかわり」の声が上がる。
ご飯をおかわりしても、キャベツが口の中を新鮮にしてフライがいくらでも食べられるし、濃厚なアサリの味噌汁と、大鯨が漬けたお新香もご飯にピッタリで、またすぐに一膳ペロリといけてしまう。
「う~ん、美味しい」
「ご飯が止まらないっぽい」
村雨は、もう1枚のアジフライには辛子をつけ、醤油をかけた。
[9]前 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:2/3
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク