伊勢と日向とジャガバター
普段の雪下ろしは、金剛や比叡、武蔵、ビスマルク、アイオワといったお祭り好きの戦艦が豪快に行うのだが、今日は建物の下で多くの艦娘が活動している。
提督は、安全第一で地道に作業できる2人を選んだのだろう。
「それっ」
伊勢はスノースコップで雪をかくと、うまく体をひねって海の方へと投げ出した。
武蔵などと比べたら地味でも、そこは戦艦娘のパワーだ。
放られた雪の塊は綺麗な放物線を描き、100メートルほど先の海面に没する。
「やるじゃないか……」
日向も、伊勢に続けて雪の塊を投擲する。
姉妹艦だけあって、日向の放った雪の塊も、伊勢とほぼ同じ距離の海面に着水した。
一昨年、雪下ろしをしていて調子に乗った比叡が、大量の雪を一気に蹴散らしたことがある。
その結果、屋根の上の雪全体が雪崩的に滑り落ち、比叡と、比叡と一緒に作業していた榛名が屋根から滑り落ちる事故となった。
幸い、下には誰もおらず、比叡と榛名も無事だったが……。
「あの時の提督、珍しく怒ったよね」
伊勢が、前置きもいつの出来事かの説明もなく日向に声をかける。
「ああ、そういう奴だからな」
日向も、以心伝心で自然に答える。
「そうそう、あれは覚えてる?」
「もちろんだ」
「提督さー、鼻血出しちゃったよね」
「…まあ、そうなるな」
他の人間や艦娘が聞いても、絶対に理解できない会話を続けながら、伊勢と日向は雪下ろしを続けていく。
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雪の塊が飛んでいく、その下の埠頭。
提督が焚き火をしていた。
軽く下茹でしたジャガイモに塩こしょうをふり、濡らしたキッチンペーパーで包み、さらにアルミホイルで二重にくるんで、焚き火の中へと入れる。
そのまま30分。
雪下ろしが終わったとき、冷え切って屋根から下りてくる伊勢と日向が喜ぶよう、絶妙な焼き加減になるように。
軍手をしたまま2人が熱々のアルミホイルをむくと、ホクホクと湯気を立てるジャガイモ。
その上にバターの塊をたらして、割り箸を渡してあげる。
伊勢は素直に歓声をあげるだろう。
日向は……うーん、ちょっと予測が難しいな。
提督はその時のことを想像しながら、焚き火に木をくべるのだった。
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