亡命政府構想③
ゲオルグ一派とフェザーンとの間で合意が成立したのは、六月末のことであった。ゲオルグは亡命政府構想に賛成し、協力を惜しまないが、現地の抵抗勢力を糾合し、帝国軍の後方でレジスタンス活動を展開するために、帝国領内にとどまるということをフェザーンに認めさせることに、ゲオルグは成功したのであった。
フェザーンとしてはローエングラム体制が覇権を確立するにあたって、強引に踏み潰したリヒテンラーデ一族の元高官を亡命政府の高職につけさせ、フェザーンとしては、ローエングラム公が野心のためだけではなくおのれの権力を守護する上でも同盟に大規模侵攻せざるをえないようにしたかったのだが、機密として情報統制を行なっていたにもかかわらず、亡命政府首班を務めるレムシャイド伯がどうやってか秘密交渉のことを知り、フェザーンに対してゲオルグの主張を認めるよう要請したのである。
計画を進める上で、レムシャイド伯に不信感を持たれたら重大な問題になりかねない。そう考えたフェザーンの自治領主アドリアン・ルビンスキーは内心の不満を隠しつつ、にこやかな笑みを浮かべて伯爵の意に受け入れたが、現地のベリーニをゲオルグに対する監視役として残すことでなんとかゲオルグをコントロールしようと試みていた。
おかげでゲオルグはベリーニに付きまとわれることになった。しかもフェザーンの圧力で寝泊まりする場所がゲオルグの家に決められたため、近所の人たちに「あなたにも春がきたのね」と微笑みながら言われて、ゲオルグは憮然とした表情を浮かべる。そういった光景がよく見られるような弊害が発生していた。
そして八月二〇日、ゲオルグはシュヴァルツァーやベリーニと共に会社の社寮(といってもゲオルグが社長を脅してつくらせたもので、シュヴァルツァーの居住空間しかないのだが)でティーブレイクしながらくつろいでいた。しかし内心では少しばかり気分が高揚していた「本日午後に重大発表を行う。全宇宙の市民は視聴するように」という前触れが、同盟政府から全宇宙に向けて発せられていたからである。
「これより、自由惑星同盟最高評議会より重大発表があります。 全市民の皆さんが視聴されるよう特別の指示が出ておりますので、皆さんのご協力をお願い致します……」
立体TVに巨大なハイネセン像が映る。旧体制下では、貴族階級ではない者が帝国を貶める叛乱勢力の下劣な偏向報道を視聴すると社会秩序維持局が出動し、視聴した者を全員を裁判にかけることすらなく思想犯認定し、最低でも数年間は政治犯収容所に収容するというのが常識であったのだが、ラインハルトの改革によって社会秩序維持局が廃止され、同盟の放送を視聴しても罪には問わないという法律も改正されたため、ゲオルグもこうして遠慮なく同盟の放送を視聴することができていた。
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