第十四条「人に怒りを向けられたらまず省みよ」
家族というのは何か――そう聞かれて答えられる者はいるのだろうか。
ドラマや小説では素晴らしいものとして描かれることも多いが、実際はそんなに良いものではない。
今日世界のどこかでは身内に殺される誰かがいることだろう。
ずっと肉親同士でいがみ合っている家もあることだろう。
距離が近しいだけに、仲がこじれたら他の誰よりも忌まわしい相手になり得る。家族と言うのはそういう可能性も秘めていた。
一方で、助けてほしいとき最初に声を届けられる相手でもある。
では、家族というのはそういった距離感の近しさで表せるものなのだろうか。
それもまた――何か違う気がする。
何かが、足りない。
島の中を、瑞鳳・祥鳳と並んで歩く。
普段休みのときは室内にいることが多いせいか、一時間もしないうちに息が上がってきた。
「すみません、提督。せっかくお休みのところを瑞鳳が無理言ってしまったようで……」
「むっ、別に私から無理言ったわけじゃないわよぅ。ね、提督」
「ああ、私の方から日頃の礼にと言ったんだ。……なに、息が上がるのは早いかもしれんがこうなってからが粘り強いぞ私は。なにせ万年体調不良だからな。息が上がっているのがスタンダードなんだ」
当たり前だが強がりである。正直かなりしんどい。
「……少し休みましょうか」
森の中の少し開けた場所で腰を落ち着ける。
足を止めた途端一気に疲れが出てきた。まだ調子が完全に戻ったわけではないようだ。
「だ、大丈夫提督? なんだったら、ここからは私がおぶって行く?」
「……いや、それは勘弁してくれ」
身体能力は艦娘の方が圧倒的に上だが、それでも女の子に背負われていくというのは抵抗を覚える。男のつまらないプライドなのかもしれないが、そのプライドはまだ捨てたくない。
疲労回復用にと持ってきていた塩飴を口に入れる。祥鳳と瑞鳳にもそれぞれ一個ずつお裾分けした。
「これ、ちょっと普通の飴とは感じが違いますね」
「塩分補給で熱中症対策とかに有効なんだ。海上移動は暑いし汗かくことも多いだろうから、移動中に携帯すると役に立つかもしれない」
艦娘は怪我に強いが、病への抵抗力は人間とそう変わらない。艤装さえ残っていれば手足が千切れかけても元通りになるらしいが、流行り病には普通にかかったりするそうだ。健康対策は心掛けておいた方が良いだろう。
「そういえば提督、康奈ちゃんは今日連れて来なくて良かったの?」
「今日は二人と出かけるって約束だったからな。あの子は今日叢雲が見てくれている。大丈夫だよ」
引き取ることになったからには信頼関係を築いていかねばならないが、それは急いで築くものではない。
人と人の関係と言うのは少しずつ、時間をかけて構築していくものだ。性急に築き上げた仲というのはどこかで綻びが生じる。
「実は出かける前、何かお土産を持って帰ると約束してね。何か面白そうなものがあれば持ち帰りたいところだ」
「それなら大丈夫よ。今日の目的地は綺麗なお花がいっぱいあるから」
「花か……」
そういうのを喜ぶ子だろうか。
「けど、びっくりしたわ。瑞鳳が急に花畑に行きたいって言うんだもの」
「ナギたちに教えてもらっただけで、私も実際行くのは今日が初めてなんだ。それなら、せっかくだし提督や祥鳳と一緒に行きたいなって」
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