第十五条「正しい行いは誰かが認めて正しくなる」
「……皆さん、落ち着かない様子ですね」
大淀が、執務室で黙々と書類を片付けながらぽつりと言った。
その言葉に手が止まる。古鷹・瑞鳳も動きを止めていた。
「提督がホニアラに向かわれるのは、そう珍しいことでもないじゃないですか」
「そ、それはそうなんだけど……。この前のこと、できれば早くきちんと謝っておきたいなって」
瑞鳳が気まずそうに視線を逸らしながら言った。心に引っかかっていることがあると、それを置いておくことができない。そういうところは瑞鳳の長所でもあり短所でもあった。
「私は最近の新八郎の動きにいろいろと引っかかる点があったからよ。最近は裏でコソコソ何かやってるみたいじゃない。今回もその一環なのかと思って気になってるだけよ」
「提督は最近に限らず結構いろいろと動いてますよ」
「それは分かってるけど」
フン、と鼻を鳴らす。
自分の知らないところで動かれるのがなんとなく気に入らない。もう叢雲は頼りにならない、などと考えているのだろうか。
本人がいれば直接苦情を申し立てたいところだが、いないとそれもできない。なぜこうも間が悪いのか。
「……私は、少し連絡が遅いなと思って」
古鷹が新八郎の机を見ながら言った。
ホニアラへの航路は安全になったわけではない。深海棲艦から制海権は取り戻したが、時折こちらの隙を突いて深海棲艦が入り込んでくることもある。だからこそ定期的な哨戒任務を行っているわけだし、護衛任務もひっきりなしに飛び込んでくるのだ。
だから、新八郎はホニアラに着いたらこちらに連絡を入れるようにしていた。無線通信ではさすがに遠すぎるので、市の大使館から電話が来るようになっている。
予定通りならとっくに到着しているはずだったが、今回はまだ連絡が来ていなかった。
「何かトラブルがあったのかもしれないわね。でも長門や北上たちが護衛でついていったらしいし、多分問題ないわよ」
戦力としてはこの泊地随一の戦闘集団だ。通常の護衛任務として考えるなら過剰戦力と言ってもいい。何かトラブルがあったとしても、新八郎たちの身に害が及ぶようなことはまずないだろう。
「……別に長門さんたちのことを信じないわけじゃないけど、ほら、以前みたいに姫クラスの深海棲艦が出てきたらと思うと」
古鷹の懸念も分からなくはなかった。
深海棲艦の中には単独で異常な強さを誇る存在もいる。確かにそういう相手が出てきたら、長門たちでも撤退に追い込まれることはあるかもしれない。
「可能性としてはゼロじゃないけど、そこを気にしてたら身動き取れなくなるわよ。私たちにできることはないんだし、信じて連絡が来るのを待ってればいいんじゃない」
「叢雲ちゃん、やっぱりちょっと機嫌悪い……?」
「瑞鳳。機嫌悪い相手に機嫌悪いねとは言わない方がいいわよ」
「あ、うん。ごめんなさい」
瑞鳳がやや怯えたような動きで引き下がっていく。それはそれでショックだった。
結局、その日は一日、連絡がないままだった。
連絡が来たのは――その翌日だった。
執務室に入ると、受話器を手に顔を青くしている古鷹がいた。
「……叢雲ちゃん」
「新八郎から?」
「ううん、長門さんから。その、提督が……」
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