第十六条「伝えたいことは口に出さねば伝わらない」
「――目標個体、発見」
偵察機を飛ばしていた赤城さんが、例の新型を見つけたらしい。
「北西、ここから五分程の距離にいますね。周囲に他の深海棲艦は見当たりません」
「思ったより近くにいましたね」
「もしかするとあちらもやり返そうとしているのかもしれません。長門たちのことを探しているのかも」
「だとすれば――」
「尚更放置しておくわけにはいかないデース」
好都合だ、と言いかけたところで金剛さんが先に声を上げた。
「敵意剥き出しの危険な深海棲艦を放置しておけば被害は拡大するばかり。ここで確実に仕留めマス」
金剛さんの言う通りだった。
私たちは今、提督の仇討のためにここにいるわけではない。危険な深海棲艦を討つために来たのだ。
「他に深海棲艦がいないのは好機ですね。もしかすると敵は指揮官タイプの個体ではないのかもしれません」
「潜水艦が潜んでいるという可能性は?」
「周囲の状況を慎重に窺ってますが、まずないと見て良いでしょう。僚艦のことを意識しているような動きには見えません」
そこで、ようやくこちらの偵察機も奴を捉えた。
人型。付属している大きな尾。何かを追い求めるかのような血走った眼。そして大きく吊り上がった口元。
奴は、笑っている。笑いながら獲物を追い求めて、無茶苦茶な軌道で海上を移動していた。
おぞましい。あれは普通の深海棲艦とはまた違う。そう直感が告げていた。
「赤城、瑞鳳。艦攻隊を出してくだサーイ。奇襲が成功したタイミングで、私と比叡が長距離砲撃を敢行するネ。そしたら後は古鷹と利根が接近戦に持ち込みマス。私たちはそのサポートに回る。これが作戦の概要デース」
「心得ました。……瑞鳳、行けますね?」
「当然です」
手にした矢に力を込めて、本来在るべき形へと変換する。それが空母たる艦娘に備わった艦載機制御能力だ。
「発艦!」
赤城さんと呼吸を合わせて矢を放つ。力を帯びて解き放たれた矢は、大空で元の形――艦載機へと姿を変える。
偵察機から得られる視界・位置情報を艦攻隊に連結させる。
細かい操縦は艦載機に乗っている妖精さん――艦娘と似たような霊的存在と言われている――に任せている。私たち空母は発艦と着艦、そして艦載機が活動するために必要な情報連結等のサポートが主な役割だ。簡単そうに思われがちだけど、艦隊行動を取りながら司令塔としての役割もこなさなければならないのはかなり神経を使う。
敵がこちらの艦載機に気づいたようだ。黒い合羽の内側から何機かの艦載機が飛び出してくる。深海棲艦が持つ、少々グロテスクな印象のある艦載機だ。
重力を無視したような不規則な動きでこちらの艦載機群に突っ込んでくる。
「敵は一体のみ。制空権の確保よりダメージを与えることを優先しましょう」
「了解!」
敵艦載機の攻撃で艦攻隊が何機か落とされた。落とされた艦載機と妖精さんは後で回収・復活させられるから今は意識から外しておく。意識は敵に集中させた。
敵が吠える。笑いながら、巨大な尾を振り回して歓喜の雄叫びを上げる。
狂戦士。そんな言葉が脳裏をよぎった。
こいつが。
こいつが、提督をあんな目に遭わせたのだ。
「……沈めえぇっ!」
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