ナザリック側始動。
さあ次はアウラとマーレにパンドラを含めて召喚で楽しませようと思ったんだけど、声をかける前に三人に囲まれてしまった。アウラが「お手伝いいたします」と言い、かぶってしまった藁を取り除いてくれたのだ。
「三人ともありがとう」
ユグドラシルの頃と同じ感覚で、藁を払うなんて考えはなかった。気をつけないとなあ。
そう考えながら双子のの頭についた藁を落としていく。パンドラは背中に回っているので藁を取ってやれないのだ。
「ありがとうございます!パイン・ツリー様」
「申し訳ありません、ありがとうございます」
「やらせてくれたら嬉しいな。あと、私のことはパインと呼ん……呼びなさい」
「かしこまりました」と三者の声がする。
こうして順番に互いの藁を取り除いた。おかげで空気が和やかなものになり、NPCたちに接する態度が自然体になる。
「そろそろみんなやってくるわね」
言葉通り、五十メートルほど離れた場所にゲートが現れた。そしてシャルティアが登場する。輝く髪、白磁を思わせる白く美しい肌、何よりも目を奪われるのはその美貌だろう。少女と女性の間、限られた時間のみ見られる移り変わる美を閉じ込めた結晶、それがシャルティアだ。
深紅のドレスを身にまといゆっくり歩く姿はまさしくお嬢様で、貢ぎたくなるぐらいかわいい。
パインは顔のない顔でにこりと笑う。
「(ふふ、私は何年も前から彼女に貢いでいるけどね)」
誰への当てつけなのか、得意気に胸の内側で呟いた。
誰にも知られずにこにことシャルティアの到着を待っているとこちらを向いた彼女の顔から表情がなくなった。
なんだろうと不思議に思う。シャルティアは距離を近づけるごとに困ったような表情を深める。すると怪訝そうな表情を浮かべたアウラ質問した。
「どうしたのよ、シャルティア。そんな顔でいつまでもパイン様を見つめるなんて不敬よ!」
「だって……だって……」
答えにくい質問なのか言い淀んでいる。私は好奇心が勝ってしまい、シャルティアに答えるようお願いした。彼女は後ろめたそうに白状する。
「パイン様の御胸が、ないんですもの」
ピシリ、と空気が固まる。至高の存在を囲むシモベたちの顔はシャルティアの不敬さに怒っていた。そして場違いな笑い声が中心でおこる。
「ふぶ、あっはっはっは……胸がないからね、そっかあ」
笑い転げたいくらい面白い。まさかあの迷セリフ「胸がなくなっている」が私に向けられるなんて、ファンとしては嬉しい。いつものシャルティアならば、転移による精神異常など問題はないと判断できる。なんども深呼吸をしてゆっくり話す。
「私は怒ってないよ。むしろシャルティアが無事でよかった……他の守護者には会ったかしら?」
ぽかんと薄く口を開けていたシャルティアの目に理性が戻ってくる。
「いいえ、会っておりません」
「オ待タセイタシマシタ」
闘技場の出入り口からコキュートスが歩いてきた。
「よく来てくれましたね、ナザリックの剣よ」
よく心の中で呟いた愛称をはじめて口にした。コキュートスは顎を鳴らす。
「オ呼ビトアラバ即座ニ、御方」
彼の口から漏れる冷気に反応して空気中の水分がバキバキと音を立てて凍っていく。彼が傍にいるだけで並みの人間は凍えるがここにいるメンバー、これからやってくるメンバーには冷気耐性や対抗手段を持っているため何かしら困ることはない。むしろ小さな氷の粒は灯りに反射してシャンデリアのようにキラキラと輝く。
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