小さい頃から俺は空が好きだった。この何処までも広がる青空を見ていれば、それだけで鬱屈とした気持ちは吹き飛んで晴れやかな気分になれる。
広げた手のひらを空に向かって伸ばしてみる。どれだけ焦がれようが、どれだけ望もうが、幾ら手を伸ばしても届かない。掴もうとしても掠りもしないのが俺の夢である空に行く事……のはずだった。
インフィニット・ストラトス。開発者に何処までも続く空と名付けられた、戦闘機を軽く上回る機動力を持つマルチフォームスーツは俺に衝撃を与えてくれた。
人が空を飛べるのだ。限りなく、生身のままで。俺の夢を具現化したような発明は当然の如く世界を震撼させた。
しかし、そんな夢のスーツにも欠点が存在した。何故か女性にしか扱えないのである。
勿論、性別が男である俺には動かせない。漸く見えてきた夢は儚くも消えていくものでしかなかった。
「……もう、届かない夢じゃない」
言葉と共に空を掴むように拳を握り締める。
そう、もう夢じゃない。俺は世界で二人目の男性IS操縦者となったのだ。
今まで掠りもしなかった空に届いた気がした。
――――いや、それはいいんですけど、どうして俺は女子校のIS学園に通う事になってるんですかね? 異性どころか同性とすらまともに話した事もないんですけど。辛いってもんじゃない。
匿うためっていうなら企業でも良いと思うんですよ。だから何処かの企業さん、俺を助けてください!
具体的な希望を言うとアナハイムかサナリィ、若しくは企業じゃないけどアルヴィスでもいいので!
ただいまIS学園の一年一組の教室、このクラスには俺を含めてもう一人の男子がいる。世界でたった二人しかいない男性操縦者が。
そんな稀少存在を一目見ようとクラスを越え、学年を越え、出でよ神の戦士みたいな感じでこのクラスに人が集まっている。こいつら全員ダンクーガかよ。
「わ、わ、動いた!?」
「あ、携帯弄ってるよ」
そりゃ動くし、弄るわい。俺だって人間なんだよ。
少し身動ぎしただけでこの反応だ。一番前にいるもう一人はこのせいで先程から動こうとしない。気分はさながら動物園のパンダである。ストレスで禿げそう。
さて、携帯を取り出したのは理由がある。このストレスをどうにかしなくてはいけない。言ってしまえばストレス解消だ。
その方法はSNSで神絵師の方々が投稿された俺の嫁の絵にひたすらいいねする事。心が洗われる。リリンが生み出した文化の極みやで。
「ねーねーねー」
気付けば直ぐ横でニコニコとしている少女が俺に話し掛けていた。
大分ビックリしたが、落ち着いてその少女の方へ顔を向ける。
「わっ、目付き悪いねー」
目付き悪いのは元からなんだから言うな。結構気にしてんだよ、ちきしょう。あと今日は寝不足だからで、普段はもう少しましなんだよ。
のほほんとした喋り方で確実に急所を抉ってくる少女をジロリと見た。
袖はダボダボだが肩幅とか他の箇所は普通な辺り、そういう風に改造しているらしい。
IS学園の制服は個人で改造してもオッケーとなっている。恐らくは生徒からそういう要望があったんだろう。オサレしたい年頃だからね、仕方ないね。
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