ハーメルン
IS学園での物語

「はっ――――」

 駆ける。駆ける。駆け抜ける。
 纏わりつく空気も、雑多な音も、襲い掛かる銃弾も、足を止めようとする水も、何もかもを振り切って。

「ははっ――――」

 このアリーナのグラウンド、空を覆うシールドを足場に飛ぶ。その度に加速して溶けていく景色を見て、ただ心が昂った。
 そうなる原因として久し振り飛べたというのは間違いない。だがそれ以外にも要因はあった。

 全力を出せるのがこんなにも嬉しいものとは。
 何のしがらみもなく、好きに飛べるのがこんなにも楽しいとは。

「はははっ!!」

 今この瞬間も戦っているという事実を忘れてただ飛んでいたい。いつかこの狭いアリーナという枠さえも越えて。

『凄い凄い! 速い速い!』

 姿は見えないが、聞こえてくる声だけでミコトもはしゃいでるのが伝わる。
 喜びを共感出来るのがこんなにも嬉しいとは知らなかった。

「そぉ……れっ!!」

 そんなこちらの喜びなど知らないと、道を塞ぐように眼前に現れた更識会長が水の槍で突きを放つ。
 加速した状態に加えて、全身を使って放たれるそれは威力、速度共に必殺の一撃と言っても過言ではないだろう。
 引き締めた表情が、向けてくる目の鋭さが、先ほどとまるで違う空気が感じさせた。これが国家代表の本気なのだと。

 しかし、今の俺にはそれさえ遅い。

「すぁっ!!」

 速度はそのままにバレルロールですれすれで避けると、槍を打ち上げるように切り払う。
 水で構成された部分を切ったためか、甲高い金属音ではなく、水を叩き付けたような音がした。

「くっ、この馬鹿力……!」

 恨めしそうな声を出す更識会長と向き合うように、左手で地面を掴んで強引にブレーキとターンを掛ける。
 無理矢理止まれば、展開された装甲の各部から排熱が始まった。その冷却時間を生かして一言。

「遅すぎる……!」
「確かに速いわね……でもまだ何とでも出来るわ」

 更識会長の発言は負け惜しみとは思えない。今もどうやったかは分からないが、実際に俺の前に出てきたのだから事実なのだろう。
 一度だけならまぐれかもしれないが、二度三度と続けば疑う余地もなくなる。

『足場を蹴る時の体勢とか身体の向きで何処に行くか分かりやすいからね』

 なるほど、要は俺の動きは読みやすいと。

『対処出来るかどうかは置いといてね』

 読みやすいのに対処出来るかは分からないとはこれ如何に。
 だが実際セシリアがそうだったように、誰もが出来る訳ではないんだろう。読めるのならやれよと声を大にして言いたいが。

 ……いや、やっぱりやらなくていいです。普通に考えて俺が怖い目に遭うだけですわ。
 テンション上がってIQ溶けてたけど、何でこの人も本気で来るんだよ。おかしいだろ。こっちは本気出せなんて言ってない。

『じゃあこっちもって良くある展開だから……』

 そういう展開好きだけど、当事者でやるのはやめてクレメンス……。

「どうしたの? 時間が勿体ないわよ?」
『あっ、残り約四〇秒』

 更識会長に言われて思い出したかのようにミコトが残り時間を告げる。俺が全力を出せる時間を。

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