真面目に考えれば男の俺を華奢な簪が支えられるはずがないのだが、その目は真剣そのもの。元からの性分に加えて断るにはかなり忍びなかった。
「……ああ、分かった。よろしくお願いする」
「っ、うん!」
差し出された小さな手に俺の左手を重ねれば、まるで大切なものを扱うかのように優しく握られる。
俺からも握り返してやれば簪から笑顔が溢れた。
「春人の手、大きいね」
「……そうか?」
「うんっ。それに暖かい」
「……そうか」
そんな些細な事が分かって喜んでいるのか、簪は手を繋いでから凄く上機嫌だ。今も元気良く頷いて、これでもかと嬉しさをアピールしてくる。
向けてくる笑顔に内心ほっこりしていると進行方向に人影が現れた。ドレスのように改造された制服には一人しか心当たりがない。
「おはようございます。春人さ、っ!?」
「……セシリア?」
予想通りの人物の登場だが、何故かこちらを見て驚いている。
何か言いたげに口をパクパクさせながら、ゆっくりと指した先には繋がれた俺達の手。
「は、春人さん? そ、それは一体……?」
「ふっ……」
何で手を繋いでいるのかと説明を求めるセシリアに対し、何故か勝ち誇った笑みを浮かべる簪。
未だにワナワナと震える指先を向けるセシリアへ説明する事に。説明するのは面倒だけど、これはちゃんと言っておかないとまずい気がした。
「――――という事なんだ」
「さ、支えているだけでしたか……驚かさないでくださいな」
下手くそながらも訳を話すと心から安堵したような深い溜め息がセシリアの口から出た。一体何を想像していたのか聞きたいところだが、こちらも気になる。
「むぅぅぅ……」
横に目を向ければむっちりと頬を膨らませた簪。セシリアの『だけ』という言葉にやたら不満そうなご様子だ。
もっと言うと俺が違うと説明し出した頃からのような気もする。説明の仕方が悪かったのか。
「それよりも昨日はそんなに体調が悪かったのですか……?」
「……単に疲れていただけだ。寝れば治る」
精神的にな!
セクハラで訴えられたらどうしようかと不安でしょうがなかったよ!
「昨日も言いましたが、ちゃんと言ってくださいね」
「……すまない」
「それと――――」
また言わなかった事を咎められるとそそくさと俺の右横に移動し、
「わたくしも支えますわっ」
「っ!?」
「…………」
そっと腕を俺の右腕に絡ませてきた。簪の顔が不満そうなものから驚愕のものへと一気に変わる。
変わったのはそれだけではない。何かを感じ取り、俺のお腹の具合も変わり始めていた。
えぇ……? 何でぇ……?
「な、何でセシリアも?」
「あら、支えるのでしたら一人よりも二人の方がいいでしょう?」
「むむむ……!」
――――すみません、全然良くないです。どうしてこうなった。
至極もっともな事を口にして得意気な顔のセシリアとそれに対して言い返せない簪。
腹に押し寄せるじくじくとした痛みに悶絶していると、ふと頭に素朴な疑問が浮かび上がる。
「……その、支えてくれるのが目的なら態々腕を取る必要はないのでは?」
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