「く、訓練機ですか?」
「……はい」
休み時間に職員室へ行くと山田先生にビクビクされながら聞き返された。
今にも泣きそうなその表情は、まるで俺が山田先生に何か悪い事をしているのかと錯覚させる。
いや、まじで話し掛けただけなんだよ。何もしてないし、何もする気はない。
ただせっかくIS学園に来たんだ。一日でも早くISに乗らなければ損だろう。一週間後のクラス代表決定戦もあるしね。
「その、す、すみません。訓練機ですが、一週間は貸し出し出来なくて……」
「……何故ですか?」
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい! 早い者勝ちなんです!」
俺の問い掛けに必死に謝りながら答えた山田先生。その様子に他の先生がジト目で見始める。大声でそんな事言われればそうもなるだろう。
先生、やめてください。死んでしまいます。
さて、山田先生が言った早い者勝ちという言葉。言われてみればそうだ。
ISは数に限りがある上、この学園にいるのはIS目的で入学しているんだから皆が皆触ろうとする。更には上級生もいるから競争倍率は非常に高い。
「で、でも櫻井くんには訓練機がずっと貸し出される予定ですので」
「……一週間後に、ですよね?」
「そうですぅ……」
俺がそう言うと涙目でしょんぼりとした。声も最後の方は本当に力なく項垂れるようで。
うん、詰みましたね。元から勝ち目なかったけど、こてんぱんにやられるフラグが立ちました。
さて、どうしたものか。俺としては負けた方がいいのだが、織斑にやる事はやると言った手前、あっさり引き下がる訳にもいかない。
「……代表決定戦までに何かする事ってありますか?」
「えっ? えっと……やっぱり仕組みを理解する事ですね。それとイメージトレーニングもいいです、よ……?」
突然でもないが、質問すると自信無さげに答えてくれる。やはり最後の方が力なく、弱々しい。
だが怖がりながらも、一生懸命俺に教えようとしてくれるこの人はいい先生だ。自信がないのは多分まだ若いから経験がないだけで。あと俺の目付きが悪いだけ。くそが。
「……分からない事があったら聞きに来ます」
「は、はいぃぃぃ……」
でもやっぱりその怖がるのやめてほしい。その術は俺に効く。だからやめてほしい。大事な事だから二回言った。
とりあえず山田先生に言われた通り、まずは入学前に貰っていた教本と睨めっこしていたのだが……。
ふと辺りを見渡せば日は暮れ、夕焼けが目に刺さる時間帯となっていた。簡単に言ってしまえば放課後である。
当然、そんな時間だから周りには誰もいるはずがなく。俺は一人、教室で佇んでいた。
「くぅー……くぅー……ぅんん」
訂正。どうやら俺一人じゃなかった。拡げていた教本を閉じれば俺の机に突っ伏して寝ている布仏の姿。
春とはいえまだこのまま寝るには寒いのだろう、身体を震えさせている。
「……起きろ」
「んー……もう少しー……」
「……はぁ」
声を掛けても、揺さぶっても返事するだけで起きようとしない。仕方ないのでまた制服の上着を脱ぐと、そっと布仏の両肩に掛けた。
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