届かない声へ
響が去った後の館。
フィーネは自室で思考にふける。
起動したデュランダル、完成した『天穿つ塔』。
欲を言うのなら、響をもう少し手元に置いておきたかったが。
『計画』の要が二つもそろっている今は、これで満足しようと自戒した。
区切りをつけたところで、もう一度響のことを考える。
体に天羽奏のガングニールを宿した、貴重な融合症例。
内に秘めた力と可能性はフィーネの想像以上であり、侵食の度合いもまた、愕然とするほど進行していた。
本人の弁に寄れば、既に痛覚、味覚と言った五感の一部と、寒暖の感覚がなくなっているとのこと。
引き換えに、鋭敏になった視覚と聴覚、そして異常なまでの自己再生能力を手に入れていた。
それもこれも、全てはただ一人の親友のためにやったという話だ。
・・・・よくぞここまでと思うし、ここまでやるのかとも思う。
歪んだ正義による制裁と、油断すれば骨ごとしゃぶり尽される環境と言う前後があるとはいえ。
たった一人のためにここまで己を削れるのかと。
彼女にしては珍しい『哀れみ』を覚えると同時に、響の『強さ』にますます興味を抱く。
そもそも、人間と言うのはややこしい存在だ。
ただ見たもの・聞いたものを鵜呑みにし、それこそが真実だと自分で考えない愚か者がいると思えば。
ゆずれぬたった一つのために奮起し、いくつもの壁を乗り越え、世界へ多大な貢献をする英雄が現れる。
幾百、幾千の時を重ねたフィーネが、未だ人間を見限きれない理由の一つだ。
(アレのようなものこそが、無辜の者が謳歌する『幸福』を手に入れるべきだろうに)
『己ではなく、他者を慮る者こそ善である』。
そう唱える者達が、頭ごなしにいたいけな少女を責め立てるなど、世も末である。
(それもこれも・・・・)
忌々しく、空を。
正確には、青空に浮く月を睨む。
・・・・計画は最終段階へ向かいつつある。
相互理解を実現させるためにも、慎重かつ迅速にことを進めねばならない。
次の一手を考察しようとしたところで、端末に通信。
「はいはーい?」
『了子くんッ!今どこにいるッ!?』
「い、今?自宅だけど・・・・?」
『了子』に切り替え出てみれば、弦十郎の切羽詰った声。
『市街地にて、響くんが武装集団と戦っているという通報が相次いでいるッ!!』
「ッなんですって!?」
その報せは、彼女にとって寝耳に水だった。
◆ ◆ ◆
うぇーい!
本日は晴れときどき鉛玉が降り注ぐでしょーっと!!
地面すれすれを駆け抜けて、おじさんの首によじ登る。
そのままコキャッっと圧し折ってから、蹴り飛ばして次。
銃弾を左腕で受けると、とっておいた右腕を突き出して胸を一突き。
そういえば『ゲイボルグ』ってそういう技術の名前だってする説もあるらしいね?
なんてことを思い出しつつついでに体を引き裂いて、確実に仕留める。
「――――ッ!?」
コレで終わりかなっと思ったら、別方向から銃声が聞こえて。
頭を掠める。
そのまま腕を交差すれば、横殴りに雨あられとばら撒かれる。
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/4
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク