ハーメルン
荀シン(何故か変換できない)が恋姫的世界で奮闘するようです
荀シン友若 下
「……そう、分かったわ。公台にはよくやったと伝えておいてちょうだい。貴方もよく伝えてくれたわ。明日朝返書を渡すからそれまで休んでおきなさい」
陳宮からの報告書を読み終えた賈駆は配送を請け負った兵士に労いの言葉をかけた。
兵士が退出するのを待って、賈駆は深いため息を付く。
董卓が心配した様子を見せる。
「え、詠ちゃん、大丈夫?」
「ええ、ボクは大丈夫。恋達もまあ上手くやったようね。最後の最後で活躍の場があったみたいだし……皆、怪我もなく無事みたいよ。死者はなし、怪我人は少々ってところね」
「良かったぁ」
賈駆の言葉に董卓は心から安堵した。
純粋に友人の無事を喜ぶ董卓。
賈駆は董卓のそんな在り方を喜ぶと同時に微かな痛みを覚えた。
軍師として、無意識のうちに味方の損害を損得勘定で判断してしまう賈駆。
例えば、仮に呂布達が死んだとしても、賈駆はそれを嘆くよりも先にその損失を見積り、抜けた穴を補填する方法を考えるだろう。
もちろん、賈駆は軍師としてそれが当然だと思っていたし、その事に後ろめたさを感じたことはない。
仲間の死を利用できなくて何が軍師か、と思う。
だが、そんな賈駆にしてみれば董卓の純粋な在り方は余りに眩しい。
親友である董卓がそうした事を気にするわけなど無い。
しかし、賈駆はこうした時、心優しい親友に自分が相応しくないと思ってしまうのだ。
「……詠ちゃん、大丈夫。詠ちゃんは私の大切な、大切な親友だから」
「っ! ゆ、月!」
賈駆の内心の葛藤を見透かしたように董卓が笑いかけた。
敵わないな、と賈駆は思った。
こんなに優しい董卓こそ、もっと上の立場に立つべきだと賈駆は思う。
少なくとも、異民族対して無謀な挑発を行って辺境を地獄へと変えた前の皇帝や現皇帝などよりは遥かにましだろう。
そもそも、洛陽の人間で辺境への理解がある人間は少ない。
官吏として出世する人間は一旦洛陽を離れた地に赴任するものだが、その際に人気があるのは賄賂が期待できる冀州を始めとした豊かな土地だ。
対異民族目的で莫大な戦費が辺境に割り当てられていた時期は辺境への赴任を志望する者もいたが、そうした人間の目的は横領と賄賂によって財を成すことであり、辺境の問題を解決するためではない。
流石に朝廷は辺境の重要さを理解していたが、実情を把握していない彼らの行動が辺境の民を救うことはなかった。
并州がこの世の地獄だった頃、董卓は辺境の民を救おうと奔走していた数少ない人間だった。
そして、それ故に董卓は他の官吏から疎まれることになった。
官吏の収賄や着服は大きな利権構造を構成していた。
民を救うために奔走する董卓の行いはその利権を切り崩すものだったのだ。
友人として、軍師として賈駆は董卓を支えようと奔走した。
だが、当時の賈駆にできたことは殆ど無かった。
賈駆の説得能力は決して高くはない。
生まれつき問題の本質を容易く見通してしまう賈駆にとって交渉とは、物分かりの悪い相手に論理を説くというものになりやすい。
相手が賈駆に従う部下であればそれで問題はない。
だが、汚職にまみれた官吏を相手に賈駆の正論は効果を示さなかった。
結局、并州が平和を取り戻せたのは董卓や賈駆の功績と言うよりは、冀州の経済圏拡大によって并州に莫大な資金が流入するようになった事が大きい。
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