ハーメルン
一撃のプリンセス〜転生してカンフー少女になったボクが、武闘大会を勝ち抜くお話〜
開会式
『試験』に無事合格し、予選大会参加者一六名の中に名を連ねることになったボクらは、大会運営が用意した宿に泊まることとなった。
『商業区』にある『
巡天大酒店
(
じゅんてんだいしゅてん
)
』という場所で、なかなか大きく立派な宿泊施設だった。
予選大会に敗退、もしくは優勝するまで、そこがボクら一六名の家となる。
予選大会は
明々後日
(
しあさって
)
から始まる。ボクらにはそれまで、二日間の休息が与えられた。
しかし、ボクはその二日間の中でも、修行を欠かすことはなかった。
一日目の夜。
そこは、小さな個室だった。
存在するものは大きなベッド、横長の机、足の長い椅子、そして正方形の
行灯
(
あんどん
)
のみ。モノの種類の数だけ見れば殺風景ととれるかもしれないが、それらに施された華美な装飾の醸し出す高級感は、モノが少ない寂しさを打ち消して余りあるものだった。
実家にあるボクの私室より、幾分か豪華な部屋。
そこはさっき述べた『巡天大酒店』の一室だった。予選大会の期間中、ボクが寝床にする場所である。
ボクはそこで一人、修行していた。
修行といっても、【
拳套
(
けんとう
)
】のような激しい動きに富んだものではない。そこまでの広さではないし、何より【
打雷把
(
だらいは
)
】の【拳套】をこんな室内で行えば、【
震脚
(
しんきゃく
)
】で床が砕けてしまう。弁償はまっぴらだ。
なのでボクは室内で、なおかつ狭い場所でも出来る修行をしていた。
ボクはやや腰を落とし、真正面に右拳を突き出した姿勢で静止している。
だが、突き技の練習ではない。
突き出された右腕の手首には――つるべが引っ掛けてあるのだ。
つるべの中にたっぷり入った水の重さによって、一定の負荷が右腕全体にかかっている。
ボクはこの状態で、すでに五分は静止している。
右腕と右肩にはだるい痛みがじわじわと続いており、額にはうっすら汗が浮かんでいた。
これは【
易筋功
(
えききんこう
)
】という、武法における修行法の一種だ。
この【易筋功】について語るには、まず【
筋
(
きん
)
】というものの存在について説明しなければならない。
――【筋】とは、武法士の肉体に存在する特殊な運動器官のことである。
【
易骨
(
えきこつ
)
】によって余分な筋力が抜け、理想的な状態に整えられた肉体にのみ現れる。
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