ハーメルン
一撃のプリンセス〜転生してカンフー少女になったボクが、武闘大会を勝ち抜くお話〜
門出の日

 ボクの真後ろに大きな『存在感』が浮かび上がった。

 それは、大樹の持つ【気】だ。

 チュンチュン、と、鳥のさえずりが近づいてくる。そう思った時には、大樹の【気】の近くに小さな他の【気】が降りてくるのをすでに感じていた。おそらく、さえずりの主だろう。

 ……【気】を持っているのは人間だけではない。動物や虫、草木だって生き物なのだ。【気】とは、生きとし生ける物すべてが等しく持つエネルギーである。

 だが、それで多くの【気】がごちゃごちゃになって、人間の存在を感知しにくくなる心配はない。

 人が持つ【気】と、その他の生物が持つ【気】では、明らかに感じが違うのだ。

 どう違うのかは上手く表現できないが、とにかく『違う』とはっきり分かる。なので、周囲に飛び交う【気】の中から、人間の【気】を簡単に見つけられる。

 タイムリーに、この広場の端に通りかかった人間の【気】を感知。

 目を開けると、そこにはこの間――父様の挑戦を受けた日だ――の早朝に鉢合わせしたおばあさんがいた。のんびりとしたペースで散歩していた。

 ニコニコ手を振ってきたおばあさんにボクは振り返すと、【聴気法】を再開した。

 しばらく続けてから、再び【硬気功】の練習を開始。

 何度か続けた後、再度小休止して【聴気法】。

 そんな風に繰り返しているうちに、山の向こうから日の出が訪れた。

 ボクは深く息を吐き、全身を緩める。今朝の修行はもう終わりだ。

 【気功術】の最中は一歩も動いてはいない。にもかかわらず、全身は汗だくだった。

 足元も、少しおぼつかない。少々張り切り過ぎたようだ。

 ボクはフラフラと大樹に歩み寄って、その幹に掌底。枝葉が震えたかと思うと、果実が一つ落ちてきた。

 いつものようにそれを食べ終えると、ボクは大樹の幹をさすりながら、穏やかに語りかけた。

「おまえともしばらくお別れだね。次戻るまでに、うんと実をつけておくれよ」

 ――そう、自分が優勝して戻ってくるまでに。






 そして、その日の正午、ボクは予定通り荷物をまとめて【回櫻市】を出た。

[9]前 [1]次話 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:4/4

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析