ハーメルン
BanG Dream!ーMy Soul Shouts Loud!!
1
◆
「おつかれーぃ!」
出演した後に袖にはけたバンドメンバーは、町民ホールの一室で用意していたコーラで乾杯した。ワインレッドのレスポールの重さをものともせず、目算ではあるが400人くらいはいたであろうあの観衆の前で物怖じせず一曲通す蘭の度胸は恐らくヒビキ譲り。すごいわね、とそれを賞賛するこころから、更に追加のコーラが振る舞われる。
次に来るのは、他のアフターグロウのメンツ。そしてなんだか騒がしい女の子たち。キャラの濃すぎる女の子達がこころを探していたらしい。そして、ヒビキに気づくと、おおっと声を上げた。
「こんな麗しい人がワルキューレだったなんて。素晴らしいかな」
「男だけどね」
「はぐみもこんなお姉さんになりたいなー」
「男だけどね!」
エプロンを取れば、割れた腹筋と大きな胸パッドが現れた。そのパッドも取れば、男の胸板が現れる。おおっと声が湧き、水色の髪の毛をした松原花音は顔を手で覆い隠した。恥ずかしがっているのだろう、顔もそれなりに真っ赤である。しかし、その他の面子は大して気にしていないようである。裸エプロンであったのだから当然か。
紐パンの上から白いスラックスを履き、淡いピンクのTシャツを着れば、なんとか見られるようになった。それでも、化粧はバッチリ女の顔にしていたので、そのギャップがかなり大きい。長身の瀬田薫はヒビキを気に入ったようで、訳の分からない言葉を投げかけてきた。
「子猫ちゃんかと思ったら、美しい薔薇だったわけか。なるほど、愛おしささえ感じられる」
「面白い言い回しするね、君。役者さんかい?」
「流石だな、かのシェイクスピアも言っていた」
「文学分からねぇ……」
コーラを飲んで、ぷはぁっと気持ち良さそうに息を吐いた。人は皆蘭の方へ集中しているようにも思える。これを蘭の親父にも見せたかったな、と思っていたがモカがカメラを回していたことは知っていた。それを思い出した時、扉を黒い短髪の中年男性が開けてきた。
ヒビキ、と声をかける。少し小太りで背の低い彼は、ヒビキの父親だ。蘭は久々にその姿を見て、挨拶を嬉しそうにした。パイプ椅子から立ち上がったヒビキは、どうしたの、と見下ろすような形で父親に聞く。差し入れを持ってきてくれたそうで、まずは屋外へと連れ出した。部屋を出れば、香ばしい匂いが鼻腔と空腹をくすぐる。
野外ステージから近くの所の屋台。そこでヒビキの父親とその部下が、出張でステーキ屋をやっていた。焼いておいたから、と人数分のリブステーキを皿に載せて渡す。太っ腹なのは外見だけではなかった、とヒビキはからかったが、気の長い性格の父親は違いないなと笑い出した。
「ヒビ兄のお父さん、元気そうだな?」
「親父は元気が取り柄だからなぁ〜。オフクロは?」
「いるよ。そこで飲み物作ってる」
六角ファミリー勢揃い。喉にいいと評判のお茶を仕入れており、案の定友希那がそれを飲んでいた。ポピパの面子はこれまたウチで作った唐揚げと、やまぶきベーカリーの提供によるパンで優雅なランチを取っている。
すでに切り分けれられたミディアムレアの肉を、一切れ口にする。お詫びだ、と花音にも一つあげれば、ニコニコ笑顔が満開になった。陽が微妙に傾いている中で、これはなかなかの幸せである。
「親父。店手伝おうか?」
「もちろん。そのために外に連れ出したんだから」
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