魔法少女と商店街
☆
オールマイトが、雄英に教師として赴任すると判明した翌日。
私は全ての欄を『雄英高校 ヒーロー科』で埋めた進路希望調査を担任に叩きつけ、上機嫌で学校からの帰路に就いていた。
ちなみに、提出した後にオールマイトが必ずしもヒーロー科の授業を受け持つとは限らないことに気づいたが、彼がヒーロー科以外の授業を受け持つとは思えないので、一人で勝手に安心することにした。
「今日の晩ご飯は何にしようかな……。やっぱり、オールマイトの雄英就任を祝して豪勢にしたほうがいいよね」
お寿司にしようか、ステーキにしようか、ううん。
そんな風に私がうんうん唸りながら歩いていると、行きつけの商店街のある方面がにわかに騒がしくなり始めた。
心なしか何かが爆発したような音も聞こえるし、気のせいじゃなく黒い煙も昇っている。
まさか、と私の脳内を最悪の予想が駆け巡る。
「オールマイトの就任祝いが……!」
すぐさま『個性』を発動する。
普段は煩わしいことこの上ない『個性』ではあるが、こういう時は非常に便利だ。
足元のコンクリートに、淡く光る魔法陣が出現する。
私がそれを軽く蹴って跳躍すると、普段30センチにも満たないはずの距離が軽く100mを超えようかというほどの勢いへと変化した。
体を打ち付けるはずの風圧は、胸元で回る魔法陣が軽減してくれている。本当に、便利な『個性』だ。
勢いが緩やかになった頃合を見計らい、商店街へと目を向ける。
何故だかビル並みにでかい女性が邪魔で良く見えないが、爆発と煙が見えた。
予想は悪い意味で大当たりらしかった。
☆
商店街手前の道路に着地する。
衝撃も風圧も、全て『個性』で軽減しているので問題は無いが、周囲の野次馬がギョッとした目でこちらを見た。
そりゃ、制服姿の女子中学生が空から降ってきたら、『個性』があると分かっていても驚くだろうな、とどうでもいいことを考えながら服についた土埃を払いながら商店街へと向かう。
……が、野次馬が壁となって前が良く見えない。
必死に背伸びして様子を確認しようとするが、それほど高くない私の身長では無意味に等しかった。
それはそれとして、真上にいるビッグウーマンのせいで影になって諸々見えにくい。正直邪魔だった。
とはいえ、爆発の衝撃と切羽詰まったヒーローたちの声はここからでも確認できた。
ああ……私とオールマイトの就任祝いが……お寿司が……ステーキが……。
「ま、魔乙女少女!?」
「――オールマイト?」
と、私が落ち込んでいる折に、痩せぼそった金髪の男性が驚いたように声をかけてきた。
不健康極まりない容姿だが、今の彼が本来のオールマイト、謂わばトゥルーフォームとでも言うべき姿だ。
何故か彼はその姿をあまり私に見せたがらないのだが、今回はそれを気にする暇もないらしい。珍しく切羽詰まった様子だった。
「助かった! すまない魔乙女少女、学生の身である君にこんなことをお願いするのはどうかと思うが、『個性』を使って敵を止めてくれ! 今、爆発系の『個性』を持つ少年がヴィランに拘束されて――」
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