第013話:”かくて小さな戦いは終わりぬ”
それから28時間後、エル・ファシルへと急行していた第12艦隊と無事に合流を果たす。
中破以上の判定で、そのままの航行は危険と判断された7隻がその場での破棄が決定され、第12艦隊より10隻の駆逐艦を融通されたリンチ残存艦隊とエル・ファシル脱出船団は、統合作戦本部よりそのままバーラト星系へ向かうように指示されるのだった。
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自由惑星同盟名称「エル・ファシル脱出戦」、銀河帝国名称「エル・ファシル沖会戦」……
この宇宙暦788年/帝国暦479年に起こったエル・ファシル星系を部隊とした戦いは、同盟/帝国双方が勝利を主張し、後世の歴史家から双方が正しいと認められた珍しい戦いとなった。
つまり脱出戦と捉えるなら「2.5倍の敵に攻められながらも600隻近くを撃沈ないし航行不能/修理不可にし、民間人全員脱出を成功させ戦略目的を達成」とする同盟が正しく、純戦術的局地艦隊戦と捉えるなら「貴族艦隊の過半数は失われたが、正規軍の損失0で800隻以上を撃沈」せしめた帝国の主張が正しいということになる。
貴族艦隊に痛打を与えながら脱出作戦を成功させた同盟に、撃沈数で上回りなおかつ正規艦隊はノーダメージだった帝国……どちらかのみを勝者とするなら判定の難しいこの戦いではあるが、敗者が誰であるかを絞るのは容易い。
そう、貴族艦隊である。
コルプト少将をはじめ、参加した(マンハントに参加しようとしていた)多くの貴族が戦死していた。
『貴殿には感謝すべきだろうな。マールバッハ伯爵』
「感謝ですか……”貸し”だと思ってよろしいので?」
マールバッハ伯爵……ロイエンタールは、通信機越しに映る”ブラウンシュバイク公爵”に貴族らしいと評される笑みを浮かべ、
『貴殿が望むなら”借り”にしておこう』
ブラウンシュバイクが「ブラウンシュバイク閥のコルプトを半ば見殺し」にしたのにも関わらず、ブラウンシュバイクが礼を言うのは奇妙に感じるかもしれない。
だが、ブラウンシュバイクはロイエンタールに対し、「貴族にしては珍しいほどの善意」を感じていた。
どういうことか?
無論、この話題の焦点はコルプトの「貴族が全てにおいて優先される」である。
全ての中には勿論、弁明の使用もないほど「皇帝よりも」が含まれると解釈できた。
それを踏まえて、ブラウンシュバイク公にとって最悪な状況とはなんだろうか?
”コルプトが生き残り、爵位を継いでブラウンシュバイク閥のコルプト子爵となった後に、今回の通信内容が「ブラウンシュバイク公を除く重鎮」にのみ送信される”
ということだろう。
もし、そんなことになればコルプト一門を門閥から追放する程度じゃすまなくなるのは当然だ。
だが、ロイエンタールの判断と報告により結局は、なんら表沙汰になることもなく「死人を裁く法はなし」という形で落ち着くだろう。
コルプトの弟が子爵位を継ぐのにも支障はない筈だ。
「ブラウンシュバイク公、”次代コルプト子爵”には今回の事情説明、”裏事情と自ら得た継承権”コミでお願いします。逆恨みされるのも面倒なので」
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