第004話:”真・ハイネセン”
「他に手がないのなら命を張るしかない。そしてどうせ死から逃れないなら、軍人なら死に方を選び効率的に死ぬべきだ」
そう告げ、リンチ少将は最後の出撃に備えるべく宇宙へと還った……
☆☆☆
その後、俺たちを探していたらしい中尉の階級章をつけた女性士官がやってきて、リンチ少将の署名と捺印が入った「民間人脱出作戦における作戦立案から決行までの全権委任状」を持ってきた。
彼女はエル・ファシルに残るつもりらしい。
「あの人と同じ宇宙で死ねないなら、せめて”あの人”がいる宇宙が見える場所で死にたいの」
そう彼女は儚げに微笑んだ。
”あの人”が誰であるかを聞くほど、先輩も俺も野暮じゃない。
リンチ少将には妻子がいたはずだが……というのは”もう一つの世界”の記憶で、現状じゃどうなってるかわからない。まあ、それに恋愛感情ってのは持つのは自由だし……って情緒もへったくれもない俺が言えた義理じゃないが。
「さて、後輩」
「なんです? 先輩」
「仕事もしっかり押し付けられたわけだし、どうやら赴任したばかりの”お客さん”扱いは期待できないようだね?」
何を今更……
「苦情なら無粋で下劣な帝国貴族とやらに言ってください。観客でいられないなら、せいぜい与えられた役割をさっさと演じるとしないと」
「後輩、やはり君は生真面目すぎるよ」
「先輩、たまにでいいですから勤勉さを発揮してください」
これでも俺は、”不敗の魔術師”の開眼を楽しみにしてるんだ……って先輩がなんだって?
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エル・ファシルの静止衛星軌道上に設置された軍港ステーションにシャトルで降り立ったリンチは、さっそくエル・ファシル駐留艦隊旗艦”シャイアン”へと向かう。
さて、ラインハルトの目が届かぬここでは三人称で語らせてもらうが……
ここでさっそく気づいた諸兄もいるのではないだろうか?
”別の世界線”ではリンチ少将の乗艦は同盟標準型戦艦の”グメイヤ”だったはずだ。
しかし、この世界における乗艦”シャイアン”は、建造が始まったのは一昔前だが元は立派な旗艦型戦艦になること期待された”アコンカグア級”の1隻だ。
しかも別の世界線ではハードウェア的な能力不足から旗艦型戦艦としては失敗作と看做され、3隻しか建造されなかったアコンカグア級だったが、この世界ではアイアース級、その改良型であるパトロクロス級が生産が開始された後も「ちょうど分艦隊旗艦として使い勝手がいい」とされ継続生産、現状でも40隻以上が建造/配備されていた。
そして、大気圏への降下/離脱能力を切り捨てた分、1隻あたりの建造費用が帝国に比べて安価な同盟軍は艦挺保有数に余力があり、アコンカグア級を最大でも分艦隊規模にしかならない方面艦隊などに優先して回していた。
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