第十五話 視る愚者
リヴィラの街がモンスターの群れに襲われ始めた頃、ギルド本部の最奥で、二柱の神が対面していた。
一方はオラリオ最大規模のファミリアを誇る、道化じみた笑みを口の端に浮かべる女神ロキ。もう一方は、迷宮都市オラリオに君臨し、管理者としての姿勢を貫き続けるギルドの主神ウラノス。
このような状況になっているのは、ロキが半ば強引に、立ち入り禁止とされているギルド最奥のウラノスのいる場所へとやってきたのが原因である。彼女は尋問紛いの質問をウラノスへとぶつけるも、彫像のように厳しい顔の男神の本心までは分からなかった。
(ま、あの気色の悪いモンスターを手引きしとるのがウラノスやないっちゅうのは確かみたいやな。他はよう分からんけど)
それが分かっただけでも十分という事にして、踵を返して部屋を出ようとした彼女に、ウラノスが口を開いた。
「こちらからも一つ質問だ」
「あん?」
ポケットに手を突っ込んだまま、首だけ動かしてそう応えるロキに、ウラノスはこう続けた。
「最近、何か変わった事はなかったか」
「………」
その質問にロキの瞳が僅かに開かれた。道化じみた笑みは消え失せ、ぞっとするような冷たい視線がウラノスへと注がれる。しかし彼は玉座に座ったまま、ピクリとも表情を変えなかった。
パチッ、と松明の火が弾ける。それ以外の明かりが存在しないこの空間では、ニ柱の神がかもし出す空気が異様に重く感じられる。もしもこの場に他の人物がいれば、息苦しささえ感じた事だろう。
しかし、そんな空気はロキの陽気な声できれいに霧散した。
「あー。そういやロイマンの奴、まーた太ったみたいやったなぁ。事務職やからってあんま甘やかしとったらアカンよ、ウラノス。アイツその内オークみたいになるで?」
「………そうか。引き留めて悪かったな」
「別に構へんよ。そんじゃ、お勤め頑張ってな」
ひらひらと手を振って、ロキは退室していった。
出口の階段を上っている間も、ウラノスからの視線をはっきりと背中に感じる。ロキは内心で舌打ちし、眉間にしわを刻んだ。
(……バレとる、か)
脳裏に浮かぶのは一人の男の姿。
甲冑姿でいる事が多く、ほとんど兜を外さない、最近【ロキ・ファミリア】に入団したその冒険者の正体を知る彼女は、知らずに唇を噛んでいた。
(どこまでや……どこまで勘付いとる?)
「神ロキ!ようやく戻られましたか!」
ギルド最奥から出てきたロキを出迎えたのは、ギルドの最高権力者であるロイマンだった。エルフらしからぬでっぷりと肥えた腹を揺らして近寄ってきた彼は、脂ぎった汗を流しつつロキへと話しかけた。
「今回はウラノスの許可が出たから良いものの、今後このような真似はくれぐれもお控え下さ……ッ!?」
今回のロキとウラノスの対面は異例も異例。万が一何かあれば最高権力者であるロイマンに全責任が回ってくる。自己保身の一心で、二度とこんな事はしないようにと注意していたロイマンの言葉が、不意に止まった。
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