ハーメルン
ロクでなし魔術講師と月香の狩人
プロローグ -偽りの夜明け-

 そして真なる黒幕、悍ましき月の上位者をその刃で、弾丸で以て討ち、悉くを狩り尽した。

 斯くして一夜は終幕へ至り、新たなる一夜が幕を開ける――その筈だった。

 迎える筈の夜は来ず、暗闇に意識を手放した狩人の姿もまた無く。
 詰まる所、これは次なる一夜の前の寄り道だ。
 空間転移を可とする多腕の上位者(アメンドーズ)の仕業か、それとも別なる何者かの手によるものなのか。
 確かなことはただ一つ。どうやら彼の苦難は、まだ終わりに至ることはないらしい。

 故に狩人よ。数多に在する獣狩りの徒が1人よ、暫しの別れだ。
 新しい悪夢(せかい)を――堪能したまえよ。





 

 “悪夢は巡り、そして終わらないものだろう”

 繰り返される悪夢の中で、幾度となく聞いたある狂人の言葉だ。
 人を人ならざる領域へと至らしめる何か――今は亡きビルゲンワースの学長、ウィレームの言葉を借りるのなら、『瞳』と呼ばれるモノを求め、上位者ゴースに対し、交信を試み続けたあの男の言葉は、最初に聞いた時は苛立ちしか覚えなかった。

 終わらない悪夢などない、と信じ続けていたあの頃が懐かしい。
 奇しくもあの男の言葉は現実となり、幾度獣や上位者どもを屠ろうとも、真の夜明けを迎えることは叶わなかった。
 だがもし、今再びあの男が同じ言葉を吐いたとしたら、()はこう答えるだろう。


 ――“これも貴様の云う悪夢なのか?”


「はぁ、はぁ……っ!」


 忙しない様子のまま、纏う黒ローブを風になびかせて男が走る。
 夜闇に包まれた、人知れぬ路地裏を駆ける男の正体は魔術師――世間的に云う、外道魔術師と呼ばれる輩であった。
 目的のためならば手段を選ばない、文字通り人間の道を外れ、外道と成り果てた彼らではあるが、故にその危険性は高く、例えそれがチンピラ同然でも決して侮ってはならない。

 だが今、その外道魔術師の様子から察するに、彼は間違いなく逃げていた。
 相手は魔術師か、それとも噂に名高きあの帝国宮廷魔導士か?
 いずれであれ、今の彼の手に負える相手でないことは確からしく、屈辱に耐えながらもこうして逃走し続けているのが現状だ。


「……!」


 逃走の果て、曲がった角の先へと進んだところで男はその双眸を見開く。
 目の前にあるのは壁。夜闇の黒に染め上げられた、街区によく見られる長大な壁である。
 最初のその姿を見た時は僅かに絶望したが、何と云うことはない。
 周りにあるものに飛び移り、高さを縮めていけば何とかなる。

 天辺にさえ到達すれば、おそらく()()を撒くことはできるだろう。

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