第14夜 再会と不吉の兆し
サイネリア島・山奥。
住宅街や観光街など、人気の多い場所から離れた場所に、その一軒家はひっそりと建っていた。
一軒家とは言っても、そこまで大したものではない。
外装は木板や丸太で作られた純木製で、窓ガラスなどの一部分を除けば、完全に専門職の人間ではない誰かが造ったであろうことは明白だ。
既に外は夜闇に包まれ、その隠れ家の中では火が灯り、仄かに内部を照らしていた。
「……さて、まずは祝おうか」
火の灯りに照らされ、まず明らかとなったのは金髪の壮年男性、ヴァルトール。
用意された椅子の1つに掛け、口髭を蓄えた口角を小さく吊り上げ、微笑みを湛えながら言った。
「我が同士、その最後の1人。
我ら狩人の宿願を遂げ、こうして再び巡り会えたことに――乾杯」
『――乾杯』
ヴァルトールの祝福の言葉を合図に、それぞれが手に持つグラスを掲げ、その中身を呷る。
中身は鮮血のように赤い液体で満たされていたが、狩人たちにして珍しく、中身は単なる葡萄酒だ。
常ならばきっと、薄めた血をグラスに満たし、酒の代わりに飲んでいたやもしれないが、そこは流石に狩人。これから始まる件についての重要さを理解しているらしく、此度は控えたらしい。
「……それで、俺を迎えにきた、というのはどういうことだ?」
空になったグラスを置き、隣に座るガスコインへと視線を移しながら尋ねる。
御尤もな問いがくることはガスコイン自身察していらしく、彼の問いには答えず、代わりに顔を僅かに動かし、隠された視線をテーブル奥に座すヴァルトールへと向け、返答の代行を促した。
「言葉通りの意味だ、同士。我ら連盟、いや……『狩人連盟』は、お前を再び迎え入れたいのだ」
「『虫』の根絶、淀みの浄化……か?」
「ああ、そうだとも。流石は優秀な狩人だ」
整った渋みを感じさせる顔立ちが、微かな狂気に歪む。
元々総ての『虫』の根絶という、正気の沙汰ではない使命を課し、志を同じくする者たちと共に奔走していた男だ。
ヤーナムの真っ当な狩人たちにとって忌むべき『狂気』も、この男ならば仕方ないと、片を竦めるほかない。
そして狂気に満ちたヤーナムならざるこの異界にて、ヴァルトールら連盟――『狩人連盟』なる組織が求める『虫』と称すべき穢れとは……
「――外道魔術師か」
「ご名答。お前のもう1つの顔の噂も耳にしているのでね。そちらも同様に……偶然だろうが、我らの使命を全うし続けていることには、感謝しているぞ」
「……別に俺は、連盟の使命のために奴らを狩っていたわけではない」
外道魔術師たちを殺していたのは、奴らの所業がかつての医療教会、そしてビルゲンワースやメンシス学派のそれに似ていた故に、そこから来る憎悪と怒りの解放というものだったが、奴らを狙う目的は別にある。
それは己を――このヤーナムが存在しない未知の異界に飛ばした存在、それを知るためだ。
近道をするならば国に取り入り、その内部に秘された情報を得るべきだろうが、必ずしも国が己の求める情報を手にしているとは限らない。
それに己ができることは、獣を狩り、狂人を殺し、上位者を滅ぼすことだけ。
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