ハーメルン
ロクでなし魔術講師と月香の狩人
第17夜 これからのこと

 燦々と輝く太陽が、地上に恵みの光を降り注ぐ。
 光に照らされ、輝く白浜で、水着姿の少年少女たちが楽し気な声を上げながら駆け抜ける。
 そんな光景を目にしながら、ビーチパラソルの下で彼らはじっと座り込み、何を言うこともなく沈黙していた。


「……」

「……」


 あの後、バークス=ブラウモンは『謎の失踪』という形で処理され、翌日に控えていた研究所見学は、政府上層部より下された研究所への稼働停止命令によって中止。
 従ってその日の予定は完全に真っ白となり、丸々一日が休憩となってしまったのだ。
 だが、ある意味では幸運だったのかもしれない。
 生徒たちは自由に過ごす時間が増え、1度は裏切ったリィエルも、グレンとルミア、そして意外なことにガスコインの協力である程度は持ち直し、今は他の生徒たちと共に砂浜でビーチバレーの真っ最中だ。

 そしてこの先のことを考える上では、グレンたちにとっても、まとまった時間が要求されていたのは確かで、そう考えると二重の意味でこの空白の1日は幸運なのだろう。


「……まさか、あんたが『血塗れの殺人鬼』だったとはな」


 独り言のように呟くグレンの声からは、ある種の迷いが窺えた。
 かつて宿敵としてぶつかり合った殺人鬼として接するか、それとも同僚である医務室補佐の町医者として接するか。
 それを言葉の1つ1つから理解したのか、ギルバートは被っていたヤーナムの帽子を目深に被り直しながら、その下で軽く笑った。


「どちらでも構わんぞ。殺人鬼でも、町医者でも」

「……お前、まるで隠すつもりがねえな」

「当然だ。バレてしまった以上、これ以上の秘匿は無意味だ。……それに、アレは俺も疲れる」

「そうかよ」

「ああ、そうだ」


 町医者という仮の姿をとって、それなりに長い年月が経過しているが、それでも疲れるものは疲れるのだろう。
 寧ろ町医者としてではなく、狩人として(ほんとう)のギルバートとして接して欲しいという希望が、先のグレン同様に言葉の節々から伝わってきたため、グレンもそれに応じることとした。


「狙撃手はどうした?」

「先に帰ったよ。帝都の特務分室へ送る報告書を仕上げなきゃならないんだとさ」

「そうか」

「そっちのお仲間はどうしたんだよ? バケツ頭と鴉仮面、そんであのどデカい神父様は?」

「ガスコインらは早朝、本土に構えた連盟本部へと帰還するべく船に乗って行った。
 今回の一件……ミコラーシュの存在について、他の狩人たちと話し合うそうだ」

「そうかい」


 ミコラーシュ――復活の際、まだ意識が不明瞭であったギルバートは、直接その目で見ることは叶わなかったが、それらしい存在感を認知することは辛うじてできていた。
 『夢の声』の正体――かつて学院を襲ったテロリストの1人、ジン=ガニスの言っていたものの正体が、よもやあの男だとは思いもしなかったが、その正体が判明した今、よくよく考えて見れば納得できるものがある。
 
 ミコラーシュは、己が初めて邂逅した時点で既に現実世界の肉体はミイラ化し、抜け殻と化していた。

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