ハーメルン
ロクでなし魔術講師と月香の狩人
第1夜 その男、狩人にして医師

 微睡の内に広がる世界。
 獣などの理性なきモノはどうだか分からないが、少なくとも人間であれば誰しもが、1度は必ず見るであろう幻想。
 人々はそれを『夢』と称し、時に悦楽、時に恐怖をその幻想より感じ得ている。

 故に、この世界もソレらと同じ夢。
 しかし、世間においての既知のモノとは異なり、この夢は何者かの手によって()()()()()()
 満月を頂く白灰色の空の下。無限に広がる果てなき幻想世界にて、ただ1つ存在する建造物。
 かつて、『狩人』と呼ばれた多くの者たちが夢幻の内に見て、囚われた牢獄。

 月の上位者の生み出せし、形なき幻夢(あくむ)――名を、『狩人の夢』という。


「……」


 古びた工房の内側より鳴り響く鉄音。
 この夢幻の工房の主が、己の所有物の手入れをしている音だ。
 工房内の作業机。その上に置かれた異形の武具。
 それをねじ回し(ドライバー)や鎚、やすりなどで分解・修理し、再び組み造り、元の形へと戻していく。

 再構築された武具――鋸と鉈を組み合わせた異形の狩道具『ノコギリ鉈』の姿は、以前と比べてもそう大して変わらないように見える。
 しかし、見掛けで判断してはいけないという言葉があるように、その得物は確かに修理前と比べて、その耐久度は回復し切っていた。


「まあ、こんなところか……」


 獣の牙を連想させる凶悪な鋸刃を鎚で数度叩き、刃音を鳴らすと狩人は先に直した短銃も合わせて、作業机に戻し、それから工房より抜け出た。
 ごく小さな石階段を下り、進んだ先に彼を待っていたのは、見目麗しい女人。
 いや、女性の姿を模した『人形』だった。


「――お疲れ様です、狩人様」

「……人形か」


 恭しく垂れた頭を上げ、無機質な両目で見つめてくる人形。
 この夢の世界と現実を別ける非常識、非日常の象徴が1つでもある彼女の姿は既に見慣れたものだ。
 だが、こうして近くで見ると、やはりその存在の異質さに疑問を抱かないことはない。


「何か用……という感じではないな」

「はい。……もしや狩人様、ご迷惑でしたか?」

「いや、ただの挨拶を迷惑と受け取るほど、俺はそこまで人間性を腐らせてはいない」

「そうでしたか」

「ああ。……人形、何か変わったことはあったか?

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